ニセモノの白い椿【完結】

掴まれた腕はそのまま引っ張られ、壁に押し付けられた。
両腕が壁に固定されて、身動きが取れない。
見下ろされいているその視線の意味が、まるで分からない。

「い、痛いって。一体、何の真似――」

木村を見上げ必死で訴えるけれど、私の言葉なんてすぐさま遮られた。

「なんで、ホテルなんかにあなたと立科が二人でいるの? いつの間に親しくなった? そんな話、聞いてない」

「別に親しくなんかない。あの場所にいたのには訳があって」

何か、大きな勘違いをしてる――?

「訳? ホテルのエレベーターで、二人して下りて来て。ご丁寧に身体まで寄り添わせて。訳なんて、聞かなくたって想像できるよ」

見上げた先にある木村は、いつもと違って髪はどことなく乱れ、シャツの首元もネクタイも乱暴に緩められていた。
感情的にただ私を押さえつける木村に、呆然とする。

「俺、言ったよね? 立科はダメだって。あの男だけは、絶対にダメだ!」

「……何よ、それ」

どうして、私が、こんな風に怒られなければならないの――?

木村は、あくまで友人で。”見守っている”と言って、常に一定の距離を置いて私と接していたくせに。

自分だって、誰かと会っていたくせに――。

これまでの胸の苦しみのせいで、大人げない怒りが込み上げて来る。

「俺は、立科と生田さんが付き合うのを見るために、見守っていたんじゃないんだよ」

「何言ってんの? 意味が分からないんですけどっ!」

哀しい。哀しみで一杯になって悔しさまで溢れ出す。 

その言い方って、結局、立科はダメでも他の誰かならいいって言っている。
分かっている。全部分かっている。木村にとっての私がどういう存在か、嫌というほどに分かっている。

なのに、突然、こんなことして。私の心を勝手に揺さぶって――。

腹が立つ。無性に、腹が立つ。

私は、力の限りで押さえつけられていた腕を振り払った。

「立科さんと付き合ってなんかないし、親しくもない。木村さんといるところを見たと言われて、話を聞くために仕方なく立科さんに付いて行った。ただそれだけ!」

「……え?」

木村の表情が変わる。

「――でも。例え、そうじゃなかったとしても、木村さんがそんな風に怒るのおかしくない? 私たち、友人なんだよね? 確かに立科さんはろくでもない人かもしれない。でも、だからと言って、どうしてこんな風に一方的に怒鳴られるの……?」

どうしてよ。

どうして、あなたがそんな風に傷付いたような顔をするのよ――!

木村は、自分でも自分のしたことを理解できていないような戸惑いの表情を見せ、そして俯いた。

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