ニセモノの白い椿【完結】
「――生田さんの言う通りだ。ごめん」
項垂れたように、木村が吐息交じりに言葉を吐き出す。
「……ホント、ごめん。俺がどうかしてた」
それ以上顔を見られたくないとでも言いたいかのように、私に背を向けた。
その肩の下がった背中を見ていたら、たまらない気持ちになる。
ホテルからここに帰って来るまで、苦しさを押し込めるためにただひたすらに歩いた。
その時のやりきれない想いが蘇る。
これ以上木村と同じ空間にいることが耐えられなくなって、自分の部屋へと向かおうとした時、木村の苦しげな声が耳に届いた。
「……今の話、詳しく教えて。立科が俺と生田さんが二人でいるところを見たって話」
木村に背を向けたまま、呼吸を整えるために息を吐く。それから、口を開いた。
「ここのマンションなのか、榊さんのお宅にお邪魔した時のことなのか分からないけど、私と木村さんが二人でマンションから出てきたところを立科さんが見てしまったらしい」
私がここに住んでしまったことで、木村の将来に傷を付けるようなことにはなりたくない。そう思って、帰宅したら木村にきちんと説明するつもりだった。
「そんなこと、あいつ、俺には一言も言わなかった。それで、何か言われたのか? あいつのことで困ったことがあったらすぐに俺に言ってくれって言ったよね」
「――今日、言われたことだから」
そう答えると、木村が考え込むように口を噤んだ。
「付き合ってるのかとか、一緒に暮らしてるのかとか、しつこく聞かれたけどきっぱり否定しておいた。だから、木村さんも話し合わせておいて。じゃあ、私、部屋に戻る」
振り切るように足を踏み出す。
「待って……っ」
その声に思わず振り返る。木村の伸びた手は、私に触れる前に止まっていた。
「立科には俺がきちんと話を付ける。あなたを困らせるようなことはさせないから。俺に任せてくれていい」
そう言う木村の顔を見て、私は力なく笑う。
「あの人、相当厄介だよね。見たことを支店内で広めたら、困るのは木村さんだって。お見合い話にも将来にも響くだろうって言ってたよ。だから、くれぐれも慎重にね。私のせいで木村さんに迷惑をかけることになったら……。そう考えるだけで、耐えられないから」
「生田さんーー」
そんなことになったら、私はーー。