ニセモノの白い椿【完結】
「じゃあ、おやすみなさい」
今度は真っ直ぐに自分の部屋へと向かった。
ドアを閉め、そのまま座り込む。
腕にはまだ木村に掴まれた感触が残る。
木村に強く掴まれた場所にそっと触れた。
やっぱり、苦しい。
その苦しさが、木村に対する想いの証拠な気がして、また苦しい。
膝に顔を突っ伏す。
あの目も手のひらの感触も、全部、私の心をかき乱す。
次の日の朝、いつもとは違う緊張を感じながらリビングダイニングへと足を踏み入れた。
「おはよう」
既に着替えも済ませ、準備が整っている木村がそこにいた。
「……おはよう」
お互いの間に、これまでにはないぎこちなさが漂う。
「俺、会議の準備あるから先に行くね」
「うん」
視線を合わせることはない。木村はダイニングの椅子に置いてあった鞄を手に取ると、部屋のドアを開けた。
その背中を見送る。
「生田さん」
「ん?」
そのまま出て行くのかと思ったら、木村がドアの前で立ち止まる。身体は前を向いたまま、顔だけをこちらへと向けた。
「昨日のことだけど。立科には上手く話しておく。生田さんは、余計な心配も遠慮もしないで」
「……わかった」
そう答えると、「行ってきます」と言葉を残し木村は出掛けて行った。
昨日までの距離感が嘘のように、その存在を遠くに感じた。