ニセモノの白い椿【完結】
仕事中も、ずっと木村のことが頭から離れない。
立科さんに見られた以上、このままでいいていいのか。
木村は、心配も遠慮もいらないと言ったけれど……。
同じ支店内にいながら、同居していることが職場の人に知られたら、どんな目で見られるか分からない。
本当に付き合っているならまだしも、そうじゃない。
そのことが、余計におかしなことになりそうで。
はぁ――。
気付くと、この日何度目かの溜息を吐いていた。
どうせ一緒に暮らす時間もあとわずか。
すぐにでも同居を解消した方がいいのかもしれない――。
立科さんとは出来る限り顔を合わせないように細心の注意を払った。
職場内にいる時は身体の中の全神経を集中させてレーダーを張り、少しでもその気配を感じれば全力で逃げた。
『立科とは話した。見たことを広めようが何をしようが痛くもかゆくもないし意味のないことだと分からせておいた。もしそれでもまだ何か言って来るようなら、俺にすぐに言って』
数日経って、木村がそう私に言って来た。
何をどう話しをしたのか。その詳細は分からなかったけれど、それを聞ける雰囲気でもなくて。
そもそも、以前のように気軽に会話が出来なくなっていた。
お互い避けているわけではない。なのに、言葉で説明できない重苦しい雰囲気が私たちを包んでいた。
意図してのことなのか、たまたま仕事が集中しているからなのか、木村の帰宅時間が遅い日が続いている。
私と顔を合わせないようにしてる……なんてことはないと思うけれど――。
以前なら簡単に話をすることが出来たのに、理由を聞くこともできない。
同じ家に暮らしているから、その距離がより鮮明になる。
その日も、23時を過ぎても木村は帰って来ていなかった。
職場で時おり見かけても、忙しそうにしていた。
仕事、かな――。
入浴を済ませ、そんなことを思いながらバスルームから出る。その時、玄関のドアが開いた。
「あ、おかえり――って、どうしたの?!」
ドアが開いたと同時に、玄関先に木村が倒れ込んでうずくまる。
驚きのあまり、すぐに駆け寄った。