ニセモノの白い椿【完結】
「ねぇ、大丈夫?」
玄関で突っ伏すように座り込んでいる木村の肩をゆする。
その時、気付いた。物凄く、酒の匂いがする。
「酒、飲んで来たの?」
「あー生田さんだー」
その肩を掴み上半身を起き上がらせると、木村は、その勢いのままに玄関脇のシューズボックスにぶつけるように身体をもたれさせた。
そしてへらへらとして私を見上げて来る。
その姿は、どこから見ても酔っ払いだった。
「ちょっと、そんなところに座らないで! 一体、どれだけ飲んで来たのよ」
力なく垂らされたその腕を取り、私の肩に掛ける。その時、木村の身体の重みが一気にのしかかって来た。
「ほら、立てる? 自分の部屋に行くよ」
「生田さん……、いい匂いする」
酔っ払いの男は、おそろしく重い。人の苦労も知らずに、全然関係ないことをぬかしてきた。
「バカなこと言ってるんじゃないわよ。一歩間違えると、変態発言だよ。それより、ちゃんと私に掴まってよ――」
「えっ、知らなかった? 俺、相当ヘンタイだけど。っていうか、男で変態じゃない奴なんているの?」
「ちょ、ちょっと! いきなり力入れないで!」
私の身体に背後からおぶさるようにして、顔を近付けて来る。その反動で、木村の重みが増した。
「本当は、俺、変態なんだよ」
今、男の変態性について木村と議論するつもりはない。
この酔っ払いめ――。
その腕を肩に回し、懸命に足に力を込める。少し油断すれば、すぐにでもよろけてしまう。一歩一歩、踏みしめるように歩みを進めた。
「どうして、こんなに酔うまで飲んで来たのよ」
何度か木村とは一緒に酒を飲んだことはあるけれど、こんなに泥酔した姿なんて見たことはない。いつだって、落ち着いた笑顔を崩さない男だった。
「……うん。どうしてもね、飲みたくて。飲みすぎちゃった」
さっきまで、セクハラまがいの発言をしていたくせに――。
間近に感じる吐息交じりの声が、切なく響く。そして、酔っ払いの無意識なのか、後ろからしがみつくように木村の腕が私の首に回される。
それを特に指摘するでもなく、なされるがままでいた。
理由なんて分からないけれど、木村が弱っているように思えたからだ。
ひきずるようにして廊下を過ぎ、なんとか木村の部屋にたどりつく。
「木村さん、自分の部屋に着いたよ。とりあえず、ベッドに座ろうか――」
「生田さん……っ」
自分の肩から木村の腕を下ろそうとした時、何故かその腕に力が込められ。
何がどうなったのか、気付くとベッドに押し倒されていた。