ニセモノの白い椿【完結】
「とりあえず、これだけは言っておくけど。俺、あなたに一切手出ししてないから」
確かに、服は昨日のまま全部着ている。ご丁寧に、スーツのジャケットまで。
たがら、その言い分は嘘ではないみたいだ。
「じゃ、じゃあ、なんて同じベッドで、寝てるの?」
「なんでって。俺のベッドだから」
ここ、この男の部屋?
恐る恐る、部屋を見回す。
改めて見ると、結構な部屋だ。モデルルームか何かか?
「あなた、昨日かなり泥酔していて。いくら時間が経つのを待っても全然酔いがさめない。どこに帰るのかと聞いても、関係ないの一点張り。誰か知り合いはいないかと聞いても『さとちゃん』と連呼するだけで、それがどこの誰かも答えない。店は閉まる、電車は終わる。道に放り出すわけにもいかないし、仕方なく俺があなたを連れて帰って来たんだよ」
そこで、この男は溜息を吐いた。
「見ず知らずの人間、普通、家に泊めたり、するの……?」
「それをあなたが言うかね」
また溜息を吐かれる。
「じゃあ、聞きますけど。道に放り出された方が良かった? そこは、まず礼を言ったらどうかな。俺がろくでもない男だったらどうするんだ。今頃あなた、無傷で済んでないよ。何されても文句言える状況じゃない」
まさに、おっしゃる通り。
何一つ反論できない。
「で、でも、だったら、せめて、別々に寝るはずじゃ。あなたはそこのソファとか――」
それでも何かを言わなければ気が済まなくてそんなことを言った。
「だから。俺が俺のベッドに寝て何が悪いの」
う――っ。
「あなたをソファか床に転がしておいても良かったけど、そこは俺の優しさだよ」
そう面倒そうに言うと、ベッドから這い出て来た。思わず私は、また壁の方へと後ずさる。
「それに――」
その分だけ男が私の方へと近付いて来た。
「昨日のあなた、いろいろ大変そうだったからね」
「わ、私は一体何を――」
完全に酔っていた。
自分がこの人に何を言ったのか、全然思い出せない。
「いろいろ、かな。いろいろぶちまけていたよ」
そう言って、にやりとした。