ニセモノの白い椿【完結】
斜め隣に座る木村が、無言のまま料理に箸を入れる。
「……相変わらず、美味いな」
不服そうな顔をしてそんなことを言うから、つい笑ってしまった。
「美味しくなるように作っているんで、当然です」
「ホント、可愛くない言い方」
やっと少し、その険しい表情を崩してくれた。
「それで。新しい部屋は、今度はいいところなんだろうね?」
「うん。駅から近いから、明るい道の間にアパートあるし。大丈夫」
私がそう答えると、何を思ったのか、木村がグラスのスパークリングワインを一気に飲み干す。そのグラスを、テーブルにトンと置くと私を真っ直ぐに見た。
「何かあったら、いつでもすぐに言えよ。あなた、変なところで遠慮するから」
「はいはい。分かりましたよ」
私も、残りの甘く弾ける液体を全部流し込んだ。
「スパークリングワインでも十分に美味しいよね」
私も木村の顔を真っ直ぐに見る。
こんな風にこの男の顔をちゃんと見るのはいつ以来だろう。
自分の気持ちに気付いてからは、ちゃんと見ることが出来なかった。
でも、今日はちゃんと見ておきたいと、何故か思った。
今日は素直に、ちゃんと木村に感謝の気持ちを伝えたい。
あっという間に、料理もスパークリングワインもなくなっていた。
「ホント、悔しいくらいに料理、美味かったよ」
箸を置くと、木村がぶっきら棒にそう言った。
「良かったです。料理は私の唯一のアピールポイントだからさ。あ、容姿以外でってことでね」
「バカじゃないの」
木村が笑う。笑ってくれて、心底嬉しい。
最後は、やっぱり笑い合って終わりたいと思う。
「本当のこと言って、なんでバカって言われなきゃいけないのよ」
ぶっさいくな顔を作り、木村に言ってやる。
「その顔、全然綺麗じゃないですけど。まあ、いいや。次の酒、何かあったかな」
「うん。冷蔵庫に、入れて置いた」
木村が立ち上がり、冷蔵庫から缶ビールやサワーをもってきてくれた。
グラスに注ぐのも面倒になって来て、それぞれ缶のまま飲み始める。