ニセモノの白い椿【完結】
お互いにそこそこアルコール摂取量も増えて来ていたから、座る姿勢も適当になり。
木村はソファにもたれ、私はテーブルに肘をついていた。
本音を語るには、いい感じに酔ってきている。
「……それにしてもさ、離婚して東京に出て来て。その時は、あなたもご存知の通り人生どん底で。この先どうなるんだろうって。三十過ぎてこれというものもなくてバツイチで。少しでも先のことを考えたら真っ暗闇だった。だから、未来なんて見る事できなかった。でも、不思議なことに、今は全然真っ暗闇じゃないんだよ。状況は何一つ変わってないのに」
左手で頬杖をつき、右手で缶ビールを持つ。
「どうしてだろうって考えてみたんだけど。それって、木村さんのおかげだったんだよね」
木村がこちらを見る。
「木村さんと出会って。出会いが最悪だったから、いつもみたいにみんながイメージする生田椿を演じる暇もなくて。最低最悪の素のままを見せて、それでもあなたは私の友達になってくれて。こんな風に親身になってくれた。ありのままでも可愛いと思う男はいるって、言ってくれたでしょう?」
木村は缶ビールを握りしめたまま、小さく頷いた。
「別に、木村さん一人にそう言われたからって何の信憑性もないはずだけど、でも自然と信じることが出来て。木村さんといると、何もかも自然体でいられた。そんなの初めてだった。だからね、もう男なんて懲り懲りって思ってたけど、そうでもないのかなーって思えてさ」
ビールを口にする。少し温くなったビールが胸に苦い。
「いつか、こんなふうに自然体で一緒にいられる人に出会えるかもしれないって。そう思えたんだ。それって凄いことだよね? 離婚して間もない私が、こんな風に未来に前向きになれるなんて」
――俺が友人として、破れかぶれのあなたが幸せになる日まで見届けてあげるよ。
私が木村にしてあげたいこと。それは、木村を安心させてあげることだ。
――彼女がちゃんと笑えるようになるまでは、結婚なんてしない。
木村は、私がまた前を向けるように、そのために一緒にいてくれたのだ。
自分の気持ちを押し殺してまで。
だから、私がどれだけ木村のおかげで元気になれたのか、分かってもらいたい。
それが、最後に出来る木村への精一杯の恩返しだ。
誰かを好きになれるなんて思わなかった。
私なんて、誰からも本気で愛されることはないと思っていた――。
でも、木村がこんな私を好きになってくれたんだ。
その事実だけで、この先十分幸せに生きていける。
「だから、この先、殻に閉じこもったりせず、また誰かを好きになれたらと思う。そんな風に思えたのは、木村さんのおかげ」
精一杯の笑顔を向ける。木村は、一瞬目を伏せた。でも、不完全ではあったけれど、笑ってくれた。
「……変な男、捕まえるなよ。あなた、男見る目ないから」
「その心配はありません。離婚という大失敗のせいで、経験値はついたからね。次は大丈夫だと思う!」
それに、木村は最高にいいオトコだったしね。