ニセモノの白い椿【完結】
「ホントかな。俺は、まだ心配だけど」
「なんだかね、いろいろ頑張れそうな気がしてるんだ。これから、少しずつ勉強して資格とって、手に職つけようかなって。今は派遣の身だからね。不安定と言えば不安定だし。そんな中で、いい出会いがあるかもしれない。まだまだ人生先は長いし、何が起こるか分からない。そう思ったらワクワクする。だから――」
缶ビールをテーブルに置き、両手をテーブルの下で握り合わせる。
「私は、もう大丈夫。ちゃんと笑えるし、前を向けるよ」
「生田さん……」
前髪からのぞく涼し気な目が揺れる。
「ありがとう。木村さん」
きっと。想いを告げるだけが、恋じゃない。
相手の幸せをただひたすらに望む。それだって、愛の一つじゃないかと思う――。
「バカ。改めて礼を言うとか、あなたのキャラじゃないだろ」
そう言って、木村は顔を背け手のひらで顔を覆った。
「何? 感動して泣いてんの? 悪魔も人の子、感謝すべき時はちゃんと感謝するんだよ」
「誰が、泣くか!」
私から顔を背け続ける木村の腕を勢いよく掴む。
「な、なんだよ……っ」
身を乗り出し木村の両腕をがっしりと掴み、真正面から顔を見た。
「だから、木村さんも。人のことばっかり心配してないで、しっかり幸せ掴むんだよ! いいね!」
真っ直ぐに見つめる。
あなたのことが、好きだよ。
だから、ちゃんと幸せになってほしい。
「あなたにはあなたにとっての、ふさわしい幸せが必ずある。分かった?」
「……急に、年上ぶるな」
それが苦し紛れの言葉だと分かるから、勢いよくその腕を突き放した。
「事実、年上ですから。分かったなら、返事して」
自分の元いた位置に座り直して、缶ビールを煽る。
その時に、小さな声が耳に届いた。
「分かったよ……」
「分かればよろしい」
こんなに近くにいても、手を伸ばせばこうやって捕まえることが出来ても、
私たちの間には決して飛び越えられない見えない壁がある。
人と人には縁というものがあって、それがなければどうやったって未来はない。
そこそこ人生を歩いていれば、そんなこと分かって来る。
結婚したってそうなのだから。
二人を繋ぐ縁がなければ、いつか終わりを迎える。
私たちには縁がなかった。
分かっている。
大人だから。理解している。