ニセモノの白い椿【完結】

「人助けって、そんな人助け、聞いたことない」

「だから、昨日も言ったでしょう? 俺、困った人を放っておけないタイプなの」

やっぱり、チャラい。軽い。雰囲気もかなりチャラい。
すらりとしたモデル体型に、色白の肌。特段特徴のない髪形なのにどこか垢抜けていて。一見爽やかに見えるけれど、そのニヤニヤとした目と軽口が胡散臭く見せる。

この男、相当に軽いぞ。

そうやって、何人もの女に声を掛けているんだ。
一般的にはイケメンの部類に入るのだろう。それに乗って来た女もたくさんいたに違いない。

私、自分で言うのもなんだがかなり容姿はいい。
一発やれればいいくらいに、思われているのかも。

「分かりやすい目で見ないでよ。俺、別に、そんなに悪い男じゃないから。特別いい人間でもないけど」

悪い男ほど、自分のことを「悪い男じゃない」と言う。

「と、とにかく。結構ですから。ここの住所を教えてください。自分で帰れます!」

そう叫ぶと、「あっそ」と言ってささっとメモ用紙に何かを書いて私に差し出して来た。

「タクシー呼ぶか、この最寄り駅に行くか。それと、何か困ったことがあったら、この番号に連絡して」

「……はぁ?」

やっぱり、この人、ヤバい人だ。
見ず知らずの人間に携帯の番号を教えるなんて。

「部屋、どうしても見つからなかった時とか」

もはや何も答える気にならない。

完全に狼狽えていた私は、礼の言葉は一つも口にせず、部屋を出た。

「――椿さん、またね」

背後からそんな声が聞こえて来た気がしたけれど、一切振り向かずに一目散に外へと逃げた。

”またね”とか、どれだけうぬぼれているんだ。
私がまた連絡するとでも思っているのか。

もう、自分に嫌気がさす。
三十を過ぎた立派な大人が、自棄になったからって、こんなことをしてしまうなんて――。

人生ではじめて、こんな大きな過ちを犯した。

31歳になったばかりの朝、ただただ、自分を罵った。

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