ニセモノの白い椿【完結】
一通りの反省を済ませた後は、記憶を抹消することにした。
考えれば考えるほど、自分のしでかしたことの大きさを実感して、自己嫌悪に溺れてしまいそうだったからだ。
神様。もうあんな無防備で無責任なことはしません。だから、お許しを――。
もう、一人でお酒は飲まない。
あのバーにも二度と足を踏み入れない。
自分に固く誓う。
誕生日の出来事を、無理矢理に記憶の彼方に追いやった頃、派遣会社から連絡が来た。
(正式決定になりましたので、今月15日から勤務開始していただけますか?)
もちろん、間髪入れずに返事をした。
いよいよ、東京での生活が始まる。
仕事も決まったことから、実家に電話を入れた。
(東京? どうして、うちに帰って来ないの。その年で東京に行って一人で暮らして、どうするつもり?)
まあ、想定された母親の反応だ。
「家に帰ってお母さんたちと同居でもしたら、近所の人に『出戻り』だってすぐばれる。人の目も気になるし、そういうの、鬱陶しいから」
私は、近所ではちょっとした有名人だ。
小さな頃から”椿ちゃんは本当に綺麗ね”ともてはやされて来た。
そんな私が離婚して出戻って来たとなれば、何を思われるか、何を言われるか。
想像するまでもない。
(だからって……。東京には、今は眞もいないし。お母さんもお父さんも、心配よ)
心配って。私はもう小娘じゃないんだから。
それに、東京に誰も知り合いがいないわけじゃない。沙都ちゃんがいる。
「とにかく、もう仕事も決めたし。来週早々には引っ越すから。じゃあね」
これ以上話してもどうなることもない。必要なことを伝えて電話を切った。
早く、住まいを探さなければ――。
その時、フラッシュバックしそうになった記憶は、寸でのところで押し止めた。