ニセモノの白い椿【完結】
触れた瞬間、一瞬、動きが止まる。
でも、それはすぐに深くなった。
骨ばった男の手。それが、私の顔をがっちりと掴み、唇を塞ぐ。
寝ている木村にこっそりしたような、子どもみたいなキスじゃない。
友人だった。友人でいなければならないと思っていた。
その人が、激しく私の口内でうごめいて。
触れ合って絡まった場所から、私の心を震えさせる。
息をする間もないほど、何度も深く入り込んで来る。
「――んっ」
息苦しいのに、息継ぎなんてどうでもいいと思えて来る。
もっと深く、もっと触れたい、触れられたいと勝手に欲求が湧き上る。
気付けば、しがみつくように木村の腕を掴んでいた。
「……生田さん」
ようやく離れた唇から、乱れた息と共に私を呼ぶ声が漏れる。
その声で恐る恐る瞼を開くと、すぐ間近に、見たこともないほどに余裕のない表情をした木村がいた。
熱を帯びて、切羽詰まったような視線。
その目で見られるだけで、金縛りにあったみたいに動けなくなる。
「どれだけ、こうしたかったのか、思い知った。キスして、震えたのなんて初めてだ」
「震える? う、嘘だ。そんな風には見えない――」
その熱に飲み込まれてしまいそうになって誤魔化そうとしてみる。
でも、すぐに手を取られて、そのまま木村の胸に押し当てられた。
さっきボタンを外してあったせいで、素肌の胸に触れさせられて。
心の中は大騒ぎだ。
もちろん男の肌に触れるのは初めてじゃない。なのに、どうしてだろう。
木村を前にすると、何も知らない頃の自分に巻き戻されてしまう。
「……ほら、凄いでしょ? 心臓」
ホント、凄い。
木村も、私にドキドキしてくれているんだ――。
その事実に、私まで恐ろしいほどにドキドキして来る。
「あなたに触れるのに、こんなに緊張してるのに、それでもやっぱり、触れたくてたまらないーー」
長い指が私の耳を優しく撫で、唇が私の顔をかすめ首筋へとーー。
やっぱり、ダメだ。このままだと私は……。
「や、やっぱり、ちょっと待って!」
悲壮感に満ちた叫び声をあげてしまっていた。