ニセモノの白い椿【完結】



――初、ニューヨーク。

成田発の夕方の便でこちらへと来た。

リムジンバスの出発の時間ぎりぎりまで木村と私のアパートで過ごし、そして、「来なくていい!」と言ったのに強引について来て、空港で見送られた。

『お預け食らってるんだから、それぐらいさせろ!』

というなんだかよく分からない理由で。

そして――。

セキュリティチェックエリアに入る間際に、不意打ちのように勢いよく腕を引かれ。

『あなたは、もう俺の女になったんだ。それ、忘れないでね。どんな男に声かけられても無視しろよ』

と耳元で低めの声で囁かれたかと思ったら、そのまま、そのまま……キスされた。

ほんっと、あり得ない。あの男、一体何なの?

恋愛関係になった途端に人格変わり過ぎなんですけれども。

あんな公衆の面前で、信じられない。


「――椿。何を一人でしかめっ面になったり顔赤くしたりしてるのよ」

「え、え?」

ニューヨークに到着してから合流した母親が、怪訝な目を私に向けて来る。

「べ、別に、何でもありませんけど」

いかんいかん。一人思い出してしまった。

両親は先に来ていて、ニューヨーク観光をしていたみたいで。
ホテルの部屋には、ベタな土産物が散乱していた。
それを見れば、どこに観光に言って来たのか一目瞭然だった。

それに比べて私は、初めてのニューヨークだというのに、観光しようなんて気にすらならない。
むしろ、帰る日のことばかりを考えている始末で――。

ああっ。いかんいかん!

もう、完全に煩悩にまみれた三十路女だ。

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