ニセモノの白い椿【完結】
そして、今度は。
自分のことに向き合う番だ。
――帰って来たら、覚悟してね。
帰りの飛行機で、何度も何度も木村の言葉が繰り返され。
座席に座りながら、怪しいほどに百面相をしていたと思う。
到着時刻が近付くほどに緊張が増して、もう少し待ってと思う。
その一方で、早く会いたくて居ても立ってもいられなくて。
もう、自分の中でも支離滅裂で。
ただ、この胸はドキドキなんて可愛いもんじゃない。バクバクと轟音のごとく騒いでる。
あの熱を帯びた目を思い出して、切なくなって。
本当に私でいいのかと、苦しくなって。
でも、あの熱を知ってしまったから。なかったことになんかできる気がしなくて。
考えれば考えるほどに訳が分からなくなって来る。
仕方がないから機内サービスのアルコールを飲んでやり過ごした。
心の奥底で燻る迷いに怯えている自分がいるのに。結局、答えは分かっている。
あの腕の逞しさも、あの胸の温もりも、あの唇の感触も、何もかもを身体中で欲している。
早く、会いたい。
例えその幸せが一瞬だったとしても、
早く、触れたい――。
とは、言ったけど。
こんなに一刻も早くとは言ってないから――!
「――ちょ、ちょっと、待って……っ」
月曜日の夕方、成田空港に到着すると、待っていましたとばかりに出迎えた木村に強制連行されて。
ただいま、木村の部屋の玄関……。
玄関だよ!
「待てません」
「で、でも――んっ」
背中は冷たいドアに押しつけられ、熱くてたまらない唇が私の唇に重ねられ。
手首は頭上にひとまとめにされて、これもまた押さえつけられている。
性急な舌が逃げ惑う私のものを絡めとる。
そのまま食い尽くされるんじゃないかと思うようなキスに、どこで息をしたらいいのか分からない。
そんな私に気付いてくれたのか、木村の唇が離れてホッとしたのも束の間。
そのまま濡れた唇が私の耳たぶを這う。
「はぁ……っ、ね、ねぇ、ちょっと、落ち着いて――」
「落ち着く? それは、無理だ」
「ひゃっ、ちょっ、ホントに、待って」
その身体を押し止めたいけれど出来ない。だって、その手は自由を制限されている。
明かりさえつけないままに、激しく拘束された。
「今の俺が、どんな状態か教えてあげようか」
耳を食みながら喋らないで――!
「目の前に差し出された獲物を捕獲しようとした瞬間に取り上げられた猛獣と同じだよ。どれだけ飢えさせられてると思ってんの」
何よ、その露骨な例え。
「ん……っ!」
いつの間にか手首は解かれ、その手首を押さえつけていた木村の手は、今度は私の腰を強く引き寄せる。身体の密着度が増したと同時に吐息が耳にかかり、そこから恐ろしいほどの痺れが身体を突き抜ける。