ニセモノの白い椿【完結】
「……ごめん。全然余裕なくて」
乱れた呼吸のまま木村が私に囁き、手のひらが優しく髪を梳く。
「辛くなかった?」
どうしよう。すべてを見せて奥まで繋がって、その後のこの甘い優しさは、心までトロトロにされる。素に戻ったはずの自分も、どれが素なのか分からなくなる。
私の髪を撫でていたはずの手のひらが顔へと滑り、愛おしそうに触れる。
その手のひらに自分の手のひらを重ねた。
「……ううん。全然。むしろ――」
――気持ち良すぎて、どこかに飛んで行きそうだった。
セックスでこんなに感じたのは初めてで、怖さを感じたくらい。
これまで、これは愛情の証の行為なのだから、感じるかどうかは関係ない。そう自分に言い聞かせていた。どれだけ苦痛でも、”好きだから、夫のために、彼さえ気持ちいいならそれでいい”って。
本当は心の奥底で置いてきぼりにされたみたいな虚しさを感じても、気付かぬふりをしていた。
どうして、こんなにも違うのだろう。
心も身体も、まるごと気持ちよくて満たされて。
「すごく、幸せな気持ちになった」
木村の手のひらを握りしめながら、その目を見上げる。
「……ダメ、その顔で俺を見ないで」
「え……っ?」
突然、木村が私を胸に抱きくるめた。
「俺、人格崩壊する」
「ど、どいうこと?」
私の背中を強く抱き寄せるから、木村の素肌の胸に頬も胸も押し付けられる。
触れた先の温かさに、また心がほわほわとして来る。
「ずっと、友達でいなければならないと強い自制の下であなたに接して来たんだよ? そんな生田さんにこうして触れられて、恋人見るみたいな目で見上げられたら、俺、ぶっ壊れる」
あ――。”生田さん”に戻ってる。さっき、一度だけ”椿”って呼んでくれたのは、無意識だったのかな。
「……またまた。木村さん、いつも調子のいいことばっかり言ってるから、どこまで本気か分からない」
「ホントだよ」
私が笑うと、木村さんの声がどこか真面目なものに変わる。
「あなたを抱いてる間中、ずっと心が締めつけられて胸がいっぱいだった……」
私を胸に抱き締めながら、木村が顔を私の肩に埋めた。