ニセモノの白い椿【完結】
「こんな幸せをみすみす逃そうとしていたんだから、俺は本当にバカだったと思うよ」
「木村さん……」
――俺はこの想いを彼女に告げるつもりはない。
そう言っていた言葉は、強い決意だったはずだ。
「それを、気付かせてもらえたんだ。雪野ちゃんに感謝しないとな」
そう言って笑うと、木村が私の肩を掴んだ。そして、腕に私の頭を載せ、目を合わせてくれる。
「――昨日、創介の家に行って来たんだ。それで、二人から話を聞いて来た」
「そうなの?」
話をしながらも、ずっとその手のひらが私に触れている。くすぐったくて、そして安心する。
「創介は、『あんな分からずや、放っておけ』って言っていたらしいんだけどね。雪野ちゃんは、黙っていられなくなったんだって。普段、人に簡単に踏み込むようなことをする子じゃないから、よっぽど見かねたんだろうね」
そう言って、榊さんのお宅での話を私に聞かせてくれた。
「偶然、創介たちに会って話をしたことがあったんだって?」
「そう。確か、木村さんのマンションを出て行く日だったと思う」
「その時、雪野ちゃんは生田さんも俺のことを想っているんじゃないかと感じたみたいで」
俺なんか、それはそれは必死に『生田さんは友達』って自分に洗脳してたから、そんなこと気付ける余裕はまったくなかったけど――木村が笑った。
休みの日の表参道でばったり会った時の会話を懸命に思い出す。
「生田さんが、俺と暮らした日々のことを『宝物』だと言ったのを聞いて、雪野ちゃんはそう感じたんだそうだ。『楽しかった』とか『感謝してる』ではなくて、『宝物』だと言った。普通は、そうは言わないってね」
雪野さんの、あの日の必死な目が蘇る。
「彼女も同じことを思ったんだって。創介との別れを決意した時、雪野ちゃんも二人で過ごした時間を『宝物』だと思った。それで、もしやと思った」
雪野さん――。彼女の心の深さに、思わず涙が込み上げて来そうになる。
きっと彼女も、何かの事情で一度は別れを覚悟した。その時胸に去来したことが私と同じことだったのかと思うと、泣けてくる。