ニセモノの白い椿【完結】
「今日は、こんなに早く帰って来て良かったの? 金曜だよ?」
水曜じゃないのに――。
目の前で幸せそうにサラダうどんを食べている人に向かって問い掛ける。
「ああ、それなら心配しないで。昨日まで、死ぬほど残業したから。それもこれも――」
それまで気持ち悪いほどに満面の笑みだった木村が、箸を止めて私を恨めしそうに見て来た。
「火曜の夜、生田さんが会ってくれなかったからだよ。その後は俺の仕事も立て込んで。でも、今日は何が何でも早く帰るって決めてたんだ。長かったよ、この四日」
「そ、そですか……」
ニューヨークから帰国した翌日、会いたいと言った木村を断ったのだ。
なんとなく。なんとなく恐かった――?
少し、浮かれていた自分を落ち着けたかったのかもしれない。昂ぶった感情を一度リセットしたかった。
「――生田さんは?」
「へっ?」
箸にうどんを巻き付けていると、探るような目がじっと私を見ているのに気付く。
「どうだった? この四日」
「あ、ああ、うん。会いたかっ、た?」
「なんで、そこ疑問形なんだよ」
木村が笑う。
「でも、いいよ。こうして来てくれたから」
そう言って、私の頭を不意に撫でて。でも、その手はすぐに戻って行った。
そして、「サイコーに美味い!」と言って再び箸を動かしていた。
こんな風に向かい合って食事をする。
そんなことは、一緒に暮らしていた時に何度もしてきたこと。
それなのに、あの頃とは違う点がある。
木村の態度。木村の言葉、表情。それが全然違う。
それが、”友人”から”恋人”に変わったという、何よりの証なのか。