ニセモノの白い椿【完結】
「俺さ、今はもう完全に実家を出てここで暮らしてるんだ。それに、ほら、生田さんの今のアパート、ここから遠いだろ? だから――」
「でも! 引っ越したばかりだし、一緒に暮らすっていうのはちょっと……っ!」
咄嗟に否定の言葉を吐いていた。
その瞬間の、木村の目に落胆が滲んだのを見逃さなかった。
「あ、あの、だから――」
どんな言葉を付け足すことで取り繕うというのだろう。
上手い言葉なんて出て来るはずない。咄嗟の私の感情が、私の偽りない感情なのだから。
そのくせ、申し訳ないなんて傲慢な感情までもが湧き上る。
「ご、ごめん……」
「……いや、俺の方こそごめん」
私を胸に抱きながら、優しく囁く。その声があまりに優しくて胸がちくりと痛む。
「さっき、余裕なくてゴメンって謝ったばかりなのにな。俺一人、焦り過ぎだよな」
「ううん。私の方こそゴメン。まだ、私たち始まったばかりだし。なんて言うか、もう少しこのままでいた方がいいかなって。それに、職場の人に気付かれても、困るし……」
私、何言ってるんだろう。どれも全部取ってつけたような理由ばかり。
でも、今は一緒には暮らせない。そこまで、踏み込めない――。
そう思っている自分が、確かにいる。
「……うん。分かったよ」
その声は、優しくて、寂し気だった。
その証拠に、私を抱きしめる木村の腕の力が強くて、身体が軋むほどに痛かった。
「――好きだよ」
「私も」
私も、好き。その気持ちにに少しの偽りもない。好きで、たまらない。
なのに――。ううん。だから、だ。
怖い――。
考えれば考えるほどに、怖いのだ。だから、思考を停止している。
「私も、好きだよ」
背中に回した手で、木村を強く抱きしめ返す。
その気持ちだけは伝わってほしくて、きつく身体を密着させる。
「生田さん……」
掠れた声が鼓膜を震わせる。どちらからともなく唇を寄せ、深く絡ませた。