ニセモノの白い椿【完結】


次の日は、朝から雨が降っていた。


遅い朝食を取った後、何気なく、窓から空を見上げた。

「――せっかくの休みなのに、雨だ」

「生田さん、どこか行きたいところあった?」

隣に立って同じように空を見ている木村が私に問い掛ける。
休みの日の木村は、ヘアスタイルもどことなくラフで、少し若く見える。

「どこって、決めていたわけじゃないんだけど。なんとなく、残念だなってね」

かなりしっかりとした雨のようだ。ベランダがあるのに、窓ガラスに水滴がいくつも貼り付いている。

「生田さん、どこか出かけたいなら、雨でも問題ない場所……映画とか行く? それとも、部屋にいる?」

私の顔を覗き込んで来る。本当に、ただそれだけなんだけれど。
どうして、そんなにいちいち優し気な目で見て来るんだろう。

私はこんなに甘やかされていいのだろうか。
これでは砂糖漬けになってしまう。

そんないらぬことを考えて、素直にその甘さに応えられない。
どう応えて良いのか分からないのなら、極力普通でいられる場所がいいだろう。

「映画、行く?」

外に出てしまえば、きっと普通でいられる。

「じゃあ、そうしようか」

そういうことで、急いで支度をして映画館のある六本木へと向かった。

車の助手席に乗り、隣で運転をする木村をちらりと眺める。

一緒に暮らそうという提案を何気なく断ったこと、気にしていないみたいで良かった――。

今朝起きてからも、特に木村に変わった様子はなかった。
いつも通り、機嫌良さそうに笑ってくれて。そのことに心からホッとする。

< 230 / 328 >

この作品をシェア

pagetop