ニセモノの白い椿【完結】


車内で、ずっと笑っていた木村がするキスとは思えない、少し乱暴なキスだった。
歯が何度もかち合って、息も苦しい。

「……はぁっ」

唇が離れた時に、思わず大きく息を吐いた。
そして、シートに身体を戻した木村を見る。目は伏せられていたから、視線を合わせられない。

「木村さん――」

「今度はさ」

思わず掛けた声は、木村の声によって飲み込まれた。

「今度の週末は、俺が生田さんのアパートに行くよ。いい?」

「もちろん。遠いけど、来てくれたら嬉しい」

慌てて笑顔を作るけれど、どこかいびつなものになっているかもしれない。
それは、そこはかと漂う張り詰めた空気のせいだ。

「……じゃあ、おやすみ」

伏せられていた目がゆっくりと私に向けられて、木村の手がこちらへと伸びて来る。
そして、すっと頬を撫でると、その手は再び木村の元へと戻って行った。

「うん。じゃあまた」

車を降りて、自分の部屋へと向かう。
アパートの階段を上がる前に振り返ると、まだ私を見ていてくれた。

だから木村に向かって手を振る。
木村も笑顔で手を振り返してくれた。

あんなに優しいのに。
私はどうして――。

階段を駆け上がる。

そして自分の部屋へと逃げ込んだ。

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