ニセモノの白い椿【完結】
そうしたら、また肩をびくつかせる。それを見逃さない。
自動販売機に並ぶペットボトルや缶を、何故か食い入るように見ている生田さんの横顔を見つめた。
艶やかな黒髪が胸のあたりまで流れ、
ちょうどよい高さとラインの鼻筋から、薄くもなく厚くもない唇を通り、華奢な顎から首への曲線が、たまらなく女らしい。
薄く開いた唇に目が留まる。初めてキスした日から、もう何度もその唇に触れた。
でも、離した瞬間からすぐにまた触れたくなる。
俺は、高校生かよーー。
自分でも呆れる。
さっき後輩が言っていたことを思い出して、そんな邪な感情だけではないものが胸に広がった。
俺が見ているみたいな目で、他の男も彼女を見ている。
そう思ったら、耐えられなくなった。
「……生田さん。今日、変な男に声かけられた?」
「えっ?」
驚いたように俺の方に顔を向けた。そして、すぐさま周囲を気にするようなしぐさを見せた。
「心配しなくても大丈夫。この時間は、あんまりここ、人来ないから。それより、朝のこと、教えて?」
「ああ……。別に、そんなに大した話じゃないのに。もう木村さんの耳にも入ってるの?」
生田さんは少し安心したようにふっと息を吐いて、俺を見上げて来た。
「あれ、虎ノ門支店の支店長らしいけど。何を言われたの?」
「『君、いつからここに?』とか、『髪、綺麗だね』とか? あと、なんだっけ。『結婚してるの?』とも聞かれたかな。別に、大したことない。それだけだもん」
一体、何が大したことないんだか。
この人は、男からのそういう目に慣れ過ぎていて、むしろ逆に感覚が麻痺しているところがある。だから、危なっかしくて仕方がない。
「それ、完全にセクハラだろ」
「そう? ギリギリセーフのラインじゃない? まあ、そういうところがあざといけど。平気平気。若い子じゃないんだし、あんな戯言、なんとも思ってないから」
そうやって、さばさばとして見せる。
そんな生田さんのことはよく知っている。
でも、それは”友人”だった頃の話だ。
今は、友人じゃないだろ――。
もっと、甘えてほしい。
もっと……。