ニセモノの白い椿【完結】
集中して処理したおかげで、予想よりも早く業務の見通しがついた。
少し疲れもあるし、そもそも定時退勤日でもある。
20時半を過ぎたところで、この日は切り上げることにした。
裏口から出て、なんとなくこのままマンションに戻る気にならず、食事をすることも兼ねて俺の隠れ家に立ち寄ることにした。
「マスター、いつもの裏メニューお願いね」
店内に入りマスターに声を掛けてカウンター席に着こうとしたら、先客がいた。
「……珍しいな」
「ああ、おまえか」
そこには、ウイスキーを片手に座る創介がいた。
「おまえの時間は、仕事以外、全部雪野ちゃんに当てるだろ。今日は、どうした。あっ、とうとうおまえの独占欲に嫌気がさして愛想尽かされたか?」
創介の隣に腰掛けて、冗談半分にそう言ってやった。
創介が結婚してから、一人でこの店にいたのを見たことがない。
仕事が終わったら、一目散に家に帰っていることは容易に想像がつく。
「バカなこと言うな。雪野は母親と旅行してる。たまには親子水入らずでゆっくりさせたくてな」
「なに、おまえがプレゼントしたの?」
「まあ、な」
「ったく、本当に絵に描いたような愛妻家だな」
まじまじと創介を見て、改めて思う。
人って、こんなにも変わるものなのか。
雪野ちゃんと出会ってからの創介に、何度もそう思って来たけれど、またも俺は感慨深げに見てしまった。