ニセモノの白い椿【完結】

集中して処理したおかげで、予想よりも早く業務の見通しがついた。

少し疲れもあるし、そもそも定時退勤日でもある。
20時半を過ぎたところで、この日は切り上げることにした。

裏口から出て、なんとなくこのままマンションに戻る気にならず、食事をすることも兼ねて俺の隠れ家に立ち寄ることにした。

「マスター、いつもの裏メニューお願いね」

店内に入りマスターに声を掛けてカウンター席に着こうとしたら、先客がいた。

「……珍しいな」

「ああ、おまえか」

そこには、ウイスキーを片手に座る創介がいた。

「おまえの時間は、仕事以外、全部雪野ちゃんに当てるだろ。今日は、どうした。あっ、とうとうおまえの独占欲に嫌気がさして愛想尽かされたか?」

創介の隣に腰掛けて、冗談半分にそう言ってやった。

創介が結婚してから、一人でこの店にいたのを見たことがない。
仕事が終わったら、一目散に家に帰っていることは容易に想像がつく。

「バカなこと言うな。雪野は母親と旅行してる。たまには親子水入らずでゆっくりさせたくてな」

「なに、おまえがプレゼントしたの?」

「まあ、な」

「ったく、本当に絵に描いたような愛妻家だな」

まじまじと創介を見て、改めて思う。
人って、こんなにも変わるものなのか。
雪野ちゃんと出会ってからの創介に、何度もそう思って来たけれど、またも俺は感慨深げに見てしまった。

< 246 / 328 >

この作品をシェア

pagetop