ニセモノの白い椿【完結】
「俺は別に。雪野もいろいろあったし、お義母さんと二人で旅行したこともないって言うから。温泉にでも行けば、心も休まるだろ」
「だから、それが愛妻家だって言うんだろ? 本当におまえは……」
高校、大学時代は創介と派手に遊びまくっていた。
俺は、お堅い親の締め付けの憂さ晴らしに。創介は、名門の家の重圧と決められた未来への鬱屈から。
お互い、似たような環境の子たちと後腐れない付き合いをしていた。
ある意味、刹那的で退廃的だった青春時代だったかもしれない。
自分で言うのもなんだが、それでもまだ俺は人としての優しさは残していた。
でも創介は――。氷のような男だった。女に対して向けるゾッとするような冷たい目に、子供の頃からの付き合いとは言え本当に怖いと思ったことがある。
それは、どこか、女に対して憎しみさえ抱いているみたいで。
まあ、それも無理はないのかもしれない。
創介の生い立ちのせいもある。本当の母親が病弱で死に向かって行く中で、父親が愛人を作っていた。
母親が亡くなってすぐにその愛人を後妻にして、創介の前に新しい母親として現れた。それも、腹違いの弟を連れて。
本当の母親が死んで行くのを見ていた創介からすれば、父親もその後妻も許せない対象だったのだろう。それでも威圧的な父親に逆らわずに生きていた代わりに、まるで自棄のような生活を裏で送っていた。
それが、大学四年の時、雪野ちゃんと出会って創介は一変した。多分、その変化に一番驚いたのは俺だろう。
派手な遊びも、創介に群がっていた女も。何もかもに背を向け、創介はただひたすらに雪野ちゃんだけを見ていた。
まさに、運命の出会いだったんだろう。
創介には彼女が必要だった。どこまでも真っ直ぐな心を持った彼女の存在が創介を人間にした。身体一つで創介の棘をすべて受け止めた。彼女のおかげで、今、目の前の男はこんなにも穏やかな顔をしている。
「雪野ちゃんのこと、愛しまくってるな」
「何を、今更」
本当に今更だ。この男の雪野ちゃんに対する深い愛情は、雪野ちゃんの他には多分、俺が一番分かっている。俺と創介が、互いの過去の汚い部分も何もかもを知り尽くしているからこそだ。
「そういうおまえはどうなんだ。あんなに『俺はおまえとは違う。これが俺の愛し方だ』って喚いていたくせに。生田さんとは上手くやってるのか?」
「……」
早速、痛いところをつかれる。