ニセモノの白い椿【完結】
「――まあ、その節は迷惑かけた。雪野ちゃんにも感謝してる。あ、どうもありがとう」
マスターがちょうどよく俺の前に生ビールを出してくれる。
だから、誤魔化すようにぐいっと飲む。
「これまで、おまえが誰かとまともに付き合っているのを見た記憶がないんだが。生田さんが初めてか?」
その答えに、一瞬口籠る。
一つだけ。たった一つだけ、創介も詳しくは知らない俺の過去がある。
俺にとって苦く後悔にまみれた記憶。
「ああそう言えば、おまえがここで酒飲んでくだ巻いていた時に、大昔に人を好きになったことがあるとか、なんとか言っていたか」
なんだよ、覚えてるのかよ。
「別にいいだろ。ガキの頃の話だ」
高校生の時だった。同じ学校の女は後々面倒だと創介が言って他校の子と遊んでいた時。
俺たちの通う超セレブ高校のそのネームバリューに群がるような派手な女の子の中に、一人場違いな子がいた。やりたい盛りの男子高校生と名門高校の男と繋がりたい女。そんな輪の中に無理やり押し込められていた彼女。
その子が気になった。
そもそも俺の家は、上流階級と一般家庭のちょうど境界線にあるような家だ。どちらの事情も様子も知っていた。
だから一目で、こんな場所に来て楽しい子じゃないと分かった。
どちらかと言うと野暮ったい制服の着こなし、洗いざらしの黒い髪、化粧っ気のない本当に普通の子だった。
中途半端な優しさを持ち合わせている俺は、人目を盗んで彼女を連れ出し声を掛けた。
『なんでこんなとこに来てるの? あの子たち、本当に君の友達?』
そう問いかけると、怯えたように俺を見上げて来た。
『べ、別に、あなたに関係ないです』
精一杯強がるように、身体全部で自分自身を守るように、そう言った。
それで余計に分かった。好きで来ているんじゃないと。
『あの子たち、それぞれもう自分のことで頭一杯みたいだし。帰っちゃえよ』
会員制のカラオケルームの一室。そこに視線を向けながら彼女に告げた。
俺の仲間たちと、既にいかがわしい雰囲気になっている。
『そ、そんなこと……っ』
唇を噛みしめ、バッグの持ち手を手の甲が白くなるほどに握りしめていた。微かに肩も震えている。
『もしかして、あの子たちに、苛められてたり、する……?』
そう言ったら、彼女がぎゅっと目を固く瞑った。