ニセモノの白い椿【完結】
『私、本当はこんなとこに来るのイヤだったの。でも、イヤだって言える勇気もなくて。イヤだと言えば、また無理なこと要求されるから』
『うん』
俯く彼女の頭をじっと見つめる。
『だから、ありがとうございます!』
本当に小動物みたいに小さくて、なんてない子だった。
『これからは誘われないように、俺からも彼女たちに言っておく。”あんな失礼な子はもう連れて来ないで”って』
そう告げたら、目をまん丸くして俺を見ていた。
『それでも、もしまた誘われたら俺に言って。裏から手を回すから』
そう言って、俺の携帯番号とメールアドレスを走り書いて彼女に渡した。
それは、本当に、心からの同情だった。全部、俺の中途半端な優しさから。
人にはそれぞれに住む世界がある。
似合わない場所にいるべきじゃない。
両方の世界を知っているだけに、俺はそう思っていた。
なのに、それから少し経った頃だった。
彼女からメールが届いた。
なんてことない、なんでもない一文。
”あの日はありがとうございました”
何で、今頃。
俺はその画面を見ながら笑ってしまった。
その日の夜でもなくて何故か数日経ってから。
もしかして、たったこれだけの文章を送るのに、ものすごく悩んだりしたのかな。
あの子の緊張した姿を思い出して想像すると、なんだか可笑しくなった。
”もう、誘われない?”
そう返したら、”大丈夫です”と返信がすぐに来た。
それも、なんだか可笑しくて。
それから、時おりなんでもないことをやり取りをするようになった。
それ以上の何かをしようとも思っていなかった。
でも、それから半年くらい経った時、いつもと違う文章が彼女から届いた。
”会いたかっ、です”
え――? なに、それ。
明らかに打ち間違え。どれだけ焦っているのか。
もちろん彼女がそんなことを言って来たのは初めてで。
今頃?
それもやっぱりおかしくて。
返信をしようとしたら、俺が送信する前に次のメールが届いた。
”す、すみません。間違いです。今の、ナシです!!!”
どれだけ『!』付けてんだよ。
”確かに間違いだね。『会いたいです』でしょ?”
そう返信した。