ニセモノの白い椿【完結】
スマホを落としそうになりながら、すぐに耳に当てた。
「もしもし!」
(今、大丈夫? 今日も残業していた?)
電話越しの生田さんの声は、直接聞くものとは少し印象が違う。低めの落ち着いた声が、静かに耳に届く感じだ。
「ああ、うん。少しね。それで、夕飯食べがてらいつものバーに寄って、これから帰るところ。あっ、でも大丈夫だよ。今ちょうど外だし、話できる」
生田さんの会話意欲を少しでも途切れさせてはなるまいと、間髪入れずにそう告げた。
(そっか……)
スマホの向こうで無言の間がある。
どうかしたのかと聞こうとしたら、生田さんの声の方が先に発せられた。
(今度の週末なんだけど、いつ、来る?)
そりゃあもちろん、一刻も早く会いたい俺としては、金曜の夜にでも行けるように着々と仕事を片付けているわけだが、ここは先に生田さんの都合を聞いておいた方が良いだろうと判断する。
「俺は週末はあけてあるから、いつでもいいよ。生田さんの都合に合わせる」
(だったら……)
そこでまた生田さんが口籠る。
「なに?」
(木村さんの都合が許す限りで)
生田さんが、少しぶっきら棒にそう言った。
「えっ?」
思わず聞き返す。
それは、どういうことだ?
「それって、どういう……」
(だから! できるだけいてってこと!)
怒ったように生田さんが声を張り上げた。