ニセモノの白い椿【完結】
今度は俺が無言になる番で。そして、遅れて感動が押し寄せる。
今のって、もしかして、照れていたのか――?
ヤバい。この人のこういうところ、本当に可愛い。
思わずそれをそのまま言葉にしてしまいたくなって、慌てて口を噤む。余計なことを言って、生田さんがそういうことを言えなくなっては困る。
「わ、分かった。じゃあ、金曜の夜、仕事終わってから直接行ってもいい?」
ここは何でもないように会話を続けよう。
(うん)
「それで、日曜日までいたりしても、大丈夫……?」
ここは攻めどころだ。俺は勝負に出た。
(――うん)
彼女のそのたった二文字で、俺の心は狂喜乱舞する。
夜遅いとは言え人通りが途絶えることのない歩道の真ん中で、俺はきっと恥ずかしげもなくニヤニヤとしているに違いない。でも、他人の目なんてどうでもよい。俺は最高に嬉しいのだ。
「じゃあ、金曜の夜から日曜日までお世話になります」
(はい)
生田さんも、俺と一緒にいたいと思ってくれている。それが何より嬉しい。
「ゆっくり二人で過ごせるな」
俺は思わず空を仰ぎ見る。星なんてまったく見えない。でも俺にはきらきらと輝く夜空に見える。
(……早く、会いたい)
なに――!
生田さんの染み入るような声に、一瞬心臓が止まるかと思った。今頃になって先ほど摂取したアルコールが俺を酔わせる。
「俺も。早くあなたと二人きりになりたい」
彼女の言葉一つで、天にも昇るし、地にも落ちる。
それが恋なのかもしれない。
彼女を思い切り甘やかしたい。俺といることで、幸せな気持ちでいっぱいにしたい。
時計をぶっ壊したくなるほどに進みの遅かった時間を乗り越え、ようやく金曜日を迎えた。
この日まで夜も朝も、仕事をしまくった。
定時退勤まっしぐらだ。
「――お先に失礼します」
誰より先に席を立つ。
「あれ、木村さん。これから旅行でもするんですか?」
隣の席の栗木が俺を不思議そうに見上げる。
「旅行? なんで」
「だって、そのバッグ、どうみても旅に行くみたいじゃないですか」
バカな奴め。旅行よりよっぽど最高な場所だよ。
通勤鞄ともう一つ、小さめのボストンバッグを手にしている。二泊三日分の俺の着替えやなんかが入っている。
「栗木には関係ないだろ。じゃあ、お先」
こいつにはもう用はない。
俺の心は、彼女の元へと既に飛んで行った。