ニセモノの白い椿【完結】


生田さんのアパートに向かう途中で、手土産を買う。
何にしようかと迷った末、シャンパンとケーキを2つ買った。

料理を作って待っていてくれる生田さんを想像して、表情が緩む。

両手は荷物で塞がって、帰宅時間帯の電車は満員で、状況的にはかなり不快なはずなのだが。
周囲の乗客たちも、しかめ面か、スマホの画面を見て無になっているかのどちらかで。
そんな中、こんなにも浮かれた顔をして不快な車内に乗っているのも俺くらいなものだろう。

それにしても、遠いよな――。

表参道から地下鉄に乗り郊外へとひたすらと向かう。
地下鉄から地上に出て、乗り入れている私鉄へと乗り換えて。

それから20分は乗車していた。

ようやく生田さんのアパートがある最寄り駅に降り立った。

あの日も、この距離にやきもきとした。
雪野ちゃんに、まんまと騙された日だ。
初めてここに来た時、早く生田さんに会わなければという焦りとこの距離とに、精神状態は崩壊寸前だった。

駅から徒歩ですぐのところに生田さんのアパートはある。
そのおかげで、駅前の明るさが消える前に家にたどり着けるのは安心だ。

以前のような、男につけ狙われる危険は減ると思われる。

そんなところを改めて確認しながら、生田さんのアパートへと向かった。

二階建ての二階、右から二番目が生田さんの部屋だ。
部屋には明かりが点いている。

その明かりに、意味もなく安堵した。


< 257 / 328 >

この作品をシェア

pagetop