ニセモノの白い椿【完結】
「途中の料理の、タイマーで。ごめんーー」
激しく肩を上下させながら、荒れた呼吸で途切れ途切れに生田さんが言葉を発する。
真っ赤な顔で、ほつれた髪が顔にかかり、ところどころ素肌が晒された乱れた着衣。
おまけにエプロン。
ここで止まれというのは、猛獣に食べかけた肉を吐き出せと言うようなものーー。
でも、俺は人間だ。理性を持つ人間のはずだ。
人間、人間、人間……。
呪文のように心の中で繰り返す。
「俺の方こそ、来てそうそうにごめんね。せっかく料理作ってもらってたのに、食べる順番間違えるところだった」
呆れるほどに無理やりな声は、またもバカな言葉を紡いでいた。
ーーバカなこと言わないで。
そう言われることを覚悟した。なのに。
「わ、たしも……」
……不意打ちはダメだ。無防備状態のところに打ち込まれたその言葉は、なんとか掻き集めた理性を吹っ飛ばそうとする。
くそっーー!!
俺にまたがる生田さんをぐっと抱き締めて、勢いよく離した。
「勘弁して。俺をこれ以上、暴走させないで」
「ごめんね。でも、今は少し我慢して。ごはん、一緒に食べよう」
そんなことを言う彼女に、またやられて。壊れて行きそうな自分をなんとか保とうと懸命に努力する。
「もちろんだ。俺はただの変態じゃないからね」
俺の言葉に、ふっと生田さんが笑みをこぼす。
あーもー。
だめ、全部だめ。
彼女の仕草全部に、身体がぐらぐらする。
「じゃあ、ちょっと、鍋見てきます」
ささっと服を整えながら俺から離れて行く生田さんを、ただ放心状態で見つめる。
その背中が、何故かしゃがみこんだ。
「……ケーキ、大丈夫みたい。良かった」
俺の方に振り返り、恐ろしいほどに優しげな笑みをくれる。
さっき床に置いた箱を、彼女が大切そうに手にした。
この時、ふっと胸に舞い降りた。
ああ。きっと俺は、一生、この人に焦がれ続けるんだろうなって。