ニセモノの白い椿【完結】

「途中の料理の、タイマーで。ごめんーー」

激しく肩を上下させながら、荒れた呼吸で途切れ途切れに生田さんが言葉を発する。

真っ赤な顔で、ほつれた髪が顔にかかり、ところどころ素肌が晒された乱れた着衣。
おまけにエプロン。

ここで止まれというのは、猛獣に食べかけた肉を吐き出せと言うようなものーー。

でも、俺は人間だ。理性を持つ人間のはずだ。

人間、人間、人間……。

呪文のように心の中で繰り返す。

「俺の方こそ、来てそうそうにごめんね。せっかく料理作ってもらってたのに、食べる順番間違えるところだった」

呆れるほどに無理やりな声は、またもバカな言葉を紡いでいた。

ーーバカなこと言わないで。

そう言われることを覚悟した。なのに。

「わ、たしも……」

……不意打ちはダメだ。無防備状態のところに打ち込まれたその言葉は、なんとか掻き集めた理性を吹っ飛ばそうとする。

くそっーー!!


俺にまたがる生田さんをぐっと抱き締めて、勢いよく離した。

「勘弁して。俺をこれ以上、暴走させないで」

「ごめんね。でも、今は少し我慢して。ごはん、一緒に食べよう」

そんなことを言う彼女に、またやられて。壊れて行きそうな自分をなんとか保とうと懸命に努力する。

「もちろんだ。俺はただの変態じゃないからね」

俺の言葉に、ふっと生田さんが笑みをこぼす。

あーもー。
だめ、全部だめ。

彼女の仕草全部に、身体がぐらぐらする。

「じゃあ、ちょっと、鍋見てきます」

ささっと服を整えながら俺から離れて行く生田さんを、ただ放心状態で見つめる。
その背中が、何故かしゃがみこんだ。

「……ケーキ、大丈夫みたい。良かった」

俺の方に振り返り、恐ろしいほどに優しげな笑みをくれる。
さっき床に置いた箱を、彼女が大切そうに手にした。

この時、ふっと胸に舞い降りた。

ああ。きっと俺は、一生、この人に焦がれ続けるんだろうなって。


< 260 / 328 >

この作品をシェア

pagetop