ニセモノの白い椿【完結】
キッチンにはテーブルを置くほどのスペースはなく、隣の6畳の和室で食事をした。
部屋の真ん中にある折り畳み式のテーブルには、ほとんど隙間はないほどに料理が並べられている。
「ごめん、テーブル小さくて」
ジャケットを脱ぎネクタイを外して、生田さんの真向かいに腰を下ろした。
「問題ないよ。それより、どれもこれも美味しそうだ」
色とりどりの料理が並ぶ。見ただけで手間がかかっていることが分かる。
仕事から帰ってすぐに、俺のために準備してくれたのだと思うと、感動してならない。
「シャンパンも一緒に飲もうか」
「買って来てくれて、ありがとね」
生田さんの家にはシャンパン用のグラスはなかったから普通のコップに注いだ。
「必要最低限のものしかなくて。せっかくの高いお酒に申し訳ないんだけど」
「味は変わらないし、気にならないよ」
引っ越して間もないし、二人で揃えた食器はすべて俺の家に置いて生田さんは出て行った。
彼女が生活をきりつめているのは、この部屋を見ればなんとなく分かる。
「じゃあ、かんぱい」
二人でコップを合わせる。
酒は何でも最初の一杯が一番美味しい。苦味のある炭酸が口の中で弾けた。
「やっぱり、美味しい」
目の前にいる生田さんが、嬉しそうにグラスを手にしている。
その顔を見られるだけで、もう十分だ。
「明日は休みだし、気兼ねなく飲んで。久しぶりに、酒飲んでくだを巻く生田さんを見たい気がするな」
そんな生田さんを、もうずっと見ていない。
あれも彼女の素を曝け出すための一部だと思うと、必要なことに思えた。
「酒飲むたびにああなるわけじゃないんだよ? 特に怒りがなければ、ああはなりません。今は別に酔って吐き出さなきゃいけないようなことはないし」
「そうなの?」
「そうです」
とりあえず、不満はないということでいいのか?
そうだとしても、どこか遠慮しているように見える彼女を、この週末をかけて解きほぐしたい。
そのためにアルコールは有効だろう。