ニセモノの白い椿【完結】

生田さんの手のひらが俺の胸のあたりのシャツをぎゅっと握りしめた。
目を閉じたまま彼女が俺から唇を離す。

そんな生田さんをただ見つめていると、今の今まで重ねていた唇が震えて開く。

「……初めてなんだ。こんな風に誰かを好きになったの」

そう唇が動くと、生田さんがその瞼を開いた。

「気付くと胸が痛くなって、些細なことで胸が締め付けられて。そういう感情から、好きだと知ったの、あなたが初めて。だから、いい年して、上手く振舞えない。装っていない素の自分で誰かを好きになるのは初めてで、今頃、初恋してるみたいな状態」

「生田さん……」

俺の胸にしがみつきながら、懸命に言葉を紡ぐ。

「だから、勘違いしないで。私は、木村さんのことが、すごく、好きだから。苦しくなるくらい、好きだから――」

アルコールのせいだって構わない。
明日になったら忘れていても構わない。

それでも。俺は、どうしようもなく嬉しくて。

「私も、いつでも、あなたに触れていたいって思ってる。心も身体も全部欲しいって思ってる」

生田さんが隠していた感情は、俺と同じものだった。
その感動に、涙が出そうになる。

俺だって、あなたが欲しくてたまらない――。

「もう、全部、あなたのものだ」

俺を見上げる欲を灯した目を見れば、優しくなんて出来ない。
一刻も早く、抱き合いたくて。

「椿……っ」

畳の上に長くて黒い髪が広がる。
欲しくて欲しくてたまらなかった人を、この手に抱き締める。

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