ニセモノの白い椿【完結】
怖くなって、まだ呼吸の整わない身体を抱きしめた。
「木村さん……?」
「今日の生田さん、あんまり素直だから、不安になるじゃないか」
バカみたいな言い分だとは思うのだけれど、抱きしめながらついそう零してしまった。
でも、思い返してみれば、この部屋に来た時から、彼女はとてもストレートに感情を表してくれていた気がする。
「なに、それ。素直じゃない方がいい?」
生田さんがふふっと笑う。
「いや、それはない。生田さんの思うようにしてほしい」
俺が慌ててそう答えると、彼女が俺の胸に頬を寄せて来た。
「……また、”生田さん”に戻ってる」
「あ……。俺、名前で呼んでた?」
「うん」
抱き合っている時は無我夢中で、俺の願望が勝手に表に出てしまうのかもしれない。
「名前で、呼んでもいいかな」
「いいよ」
長い髪に指を差し入れ抱きしめながら、その艶やかな髪に顔を埋める。
「……椿さん」
「”さん”はいらない」
あなたは年上でしょ――そう言おうとして、やめた。
俺は、彼女にそんなこと感じてほしくないと思っていたんだ。
大人でいなくていい。俺に頼って甘えてほしいと思っていた。
「了解。じゃあ、遠慮なく”椿”と呼ばせていただきます」
生田さん――じゃなくて、椿が笑いながら「はい」と言った。
「ねえ、じゃあ、”木村さん”もやめてよ。俺だけ”椿”って言って、あなたが”木村さん”じゃあ、釣り合いが取れていない」
「……えっ」
俺の腕の中で委ねてくれていた身体が一瞬にして強張ったのに気付く。