ニセモノの白い椿【完結】
「名前で、呼んでみようか」
「陽太……だっけ」
「そう」
それから一向に彼女の声が聞こえてこない。
「ちょっと? 言ってよ」
「うん……。陽太……さん」
「”さん”はいらないよね」
「よ、うた……」
今にも消えそうな声が腕の中から聞こえて来た。でも、すぐに彼女の叫びが耳に届く。
「無理無理無理! 口のあたりがむず痒くなる」
実際に口にしてみて、照れてる――。
頑なに顔を俺の胸に埋めている。
「それなら、ようたんでも、ようくんでも、ようリンでも、お好きなように」
ふざけてそう言ったら、「バカっ!」と俺の胸を叩いて来た。
「はいはい、少しふざけてみました」と笑ったら、大人しくなった彼女がぽつりと呟いた。
「……もう少し、時間をちょうだい」
「分かったよ。かなり不本意だけど、待ってます」
俺が大袈裟に落ち込んだように溜息を吐いた。
そうしたら、彼女が勢いよく俺を見上げて来た。
「ごめん。ちゃんと努力するから落ち込まないでよ。名前で呼ぶのは難しいけど、好きな気持ちに嘘はないし。むしろ、好き過ぎて、照れて言えない」
上目遣いでそんなこと言われたら、男としてはなんでも許してしまうではないか。
それにしても――。
「今日のあなた、いつもと全然違う。どうしたの? この前と別人みたいで……」
俺の方が照れてしまって、仕方がない。
彼女がこんなにも素直になるのに慣れていないのだ。