ニセモノの白い椿【完結】
「……やっぱり、後悔したくないなって思った」
「後悔?」
「うん」
少しずつ、言葉を探すようにぽつぽつと口を開いた。
「木村さんを好きになって、自分でも知らない自分が出てきて、今でも戸惑ってる。でも、好きだって気持ちを誤魔化したり抑えたりしたくないって思った」
「うん」
彼女のさらさらの黒髪を撫でながら、続きを待つ。
「せっかく、初めてこんな風に人を好きになれたんだし。その気持ちにちゃんと向き合おうって。そう思ったら、好きな人に甘えたいなんていう、私らしからぬ甘ったるい自分が出て来た」
そういう、”あなたが初めて”みたいなことは、どうしたって俺の心をくすぐるわけで。
可愛くてたまらなくなって、その身体を包み込むように抱きしめた。
「いいよ。好きなだけ甘えて。甘えまくってください。甘えてもらえると、嬉しいものです」
「うん」
「後悔なんか、させないから」
「……うん」
椿が俺に触れる手に力を込めて来た。
彼女も俺を想ってくれている。そう感じられて、満ち足りて行く。
腕に抱き締めて肌の温もりを身体全部で感じる。
「いつから、俺のこと好きになってくれたの……?」
今なら、何でも正直に教えてくれそうな気がして。気になっていたことを聞いてみた。
「多分、木村さんと雪野さんが二人でマンションに入って行くところを見かけた時。あの時に自分の気持ちをはっきりと認識した。だからその頃には好きだったんだと思う」
そうか――。思い出してみれば、あの時、妙に彼女はむきになっていた。
今思えば、分かるのに、あの時は全然気付けなかった。
人のことなら嫌というほど見えるのに、自分もその渦中にいると分からない。
「じゃあ、お互い想いを隠しながら一緒に暮らしてたんだ」
「そうだよ。木村さん、鉄壁だったよね。キスすらしてくれなかった。だから、一度、自分からしに行っちゃった」
「え……。えっ?」
その発言に驚き、飛び起きた。
「いつ。いつの話?」
そんなことに気付けない俺は一体どれだけぼんくらなんだ。