ニセモノの白い椿【完結】
玄関先で椿が見送ってくれた。
その時の笑顔が、妙に切なくて。それは多分、俺の主観が多分に影響している。
椿が手のひらを小さく左右に振って、静かに「気を付けてね」と囁く。
こういう時、彼女を大人にさせてしまうのかもしれない。そんなことを感じて、玄関先で抱きしめた。
「俺が帰るの、寂しい?」
「なに? その質問」
椿が笑う。
「ちゃんと、言って」
俺の前で大人になんてならなくていい。俺にだけしか見せない姿で甘えさせたい。
緩くひとまとめにした椿の髪を手のひらで撫でる。
その心に触れたくて、何度も撫でた。
「……うん。凄く、寂しい」
さっきと違ってどことなく心に染み入るような声。
「俺も」
「でも、すごく幸せな時間だった」
椿と恋人という関係になって気付いたことがある。
彼女はよく、本当の自分はろくでもないというけれど、きっとその姿がすべてではなくて。
こんな風に、静かに囁く姿も、優しく微笑む姿も、きっと本当の椿なんだ。
「じゃあ、また」
名残惜しさを振り切り、椿の身体を解放する。
また、明日も、明後日も。
二人で過ごす時間は積み上がって行く。
この先もずっと――。