ニセモノの白い椿【完結】
「――椿」
木村は、ご両親にどこまで話をしているのだろう。
唐島さんの話から考えてみれば、私という存在、それから離婚歴があるということ、そこまで話をしていると考えるのが自然だろう。
離婚歴のことまで言わなくたっていいのに――。
でも、それが木村なりの誠意なのだろう。
「椿?」
木村の父親がなんらかの手段で、私のことを探し当てた。それなら、表参道支店内で誰かがそれらしきことを伝えたことになる。それが誰かは大体予想はつくが……。
どちらにしても、唐島さんが私を訪ねて来たこと、木村に伝えるべきだろう。
じゃあ、どう伝える?
「椿ってば!」
「な、何?」
突然、木村の声が耳に届く。
「さっきから何度も呼んでるのに。考え事?」
木村が怪訝な目を私に向けて来た。
「違うって。聞いてます。ちゃんと聞いてるよ。で、なんだっけ?」
「やっぱり聞いてないんじゃないか」
「ゴメン」
溜息をついた木村が、私をじっと見る。
「これから二人で旅行だっていうのに、あなたの気持ちはどこに行ってるんですかね?」
「どこにも行ってないよ。どれだけ楽しみにしてたと思うの!」
それは本当だ。木村が私のために準備してくれた、一泊旅行。車で軽井沢に向かっている。心の底から楽しみにしていた。初めての二人でする旅行なんだから。
「ならいいけど」
「ほら、楽しみ過ぎて、昨日ほとんど寝られなくて。まるで遠足前の小学生だよね。それで。少しぼーっとしちゃったみたい」
「椿でもそんなことあるの?」
木村が嬉しそうに笑った。
「そりゃあ、楽しみだったら眠れなくなることくらいあるよ。それくらい、楽しみだったの!」
顔を突き出して、そう言ってやった。
「よかった、そんなに楽しみにしてくれていて。思う存分、楽しもうな!」
そうだ。せっかくの旅行なんだ。せめてこの旅行の間だけは、難しい話はしたくない。
気まずくなるような話を、わざわざ旅先でするのは違う気がする。
帰ってからでも遅くはない。
「うん」
私は、木村に思いっきり笑って見せた。