ニセモノの白い椿【完結】
本店の上層階、幹部の部屋があるフロア。
こんなとこ、一生来る機会はないだろう。
銀行の制服を着た私は、かなりの場違いぶりだ。
仰々しい雰囲気に圧倒されるけれど、絨毯を踏みしめながら歩く。
何をどう話しをするべきか全然まとまらない。
でも、刻一刻と近付いていく。
もう、こうなったら出たとこ勝負だ。
私だって、覚悟なら最初からずっとしてきたのだ。
ここでじたばたなんてしない。
半ば無理やり自分にそう言い聞かせた。
「頭取、お連れしました」
木製の扉をノックした社員がそう声を掛ける。
開いたドアと同時に部屋の中が視界に入り、いつかホームページで見た顔を捕らえる。
「では」
私をここまで案内した社員はすぐに出て行き、頭取と二人きりにされる。
どんなに平静を装うとしても心臓が恐ろしいほどに爆音を鳴らす。
「お忙しいところ、お呼び立てしてしまって申し訳ありませんでした。さあ、どうぞ、そこに掛けてください」
淡々とした声に一礼して、指示された場所に腰掛けた。
この人が、頭取で木村の父親――。
その地位だからこそのオーラなのか、それともそれほどのオーラがあるからトップに上り詰めたのか。一見、お堅い年配男性に変わりないのに、やはり雰囲気が違う。
こうして相対せば、自分はなんてちっぽけな人間なんだろうと思う。
「驚かれましたよね。失礼をお許しください」
そう言うと、驚いたことに目の前の頭取が頭を下げた。
「こうしてお呼びたてした理由は、もう想像されていると思いますが」
そこで言葉を区切ると、木村の父親は眼光鋭く私を見た。
「息子の陽太のことです」
足もとからぐらつきそうになるのを必死にこらえる。