ニセモノの白い椿【完結】
「こんな場所にお連れして、あなたもいい気分はしないでしょう。ですから、単刀直入に話をさせていただきます」
なんとかこの場に座っていないと。ただそれだけを考えた。
「失礼ですが、あなたのことを調べさせていただきました。陽太からあなたの名前を聞いたわけではありません。ただ、将来を考えている人がいると、それだけを聞いています」
膝の上でぐっと手を握りしめる。
「陽太を抜きにしてこうしてお話をすることを卑怯だと思うでしょう。でも、これも親心だとご理解いただきたい。私たち親は、陽太を大切に育てて来ました。少しでも幸せな人生を歩めるようにと、親なら誰しもが願うでしょう?」
鋭く険しい目をしながらも、そうして紡ぐ声は真摯なものに感じられた。
きっと、それが父親としての本音。
「そのために出来る事を親なりにしてきた。てしおをかけて愛情を持って育ててきたつもりです。そして、親として息子は立派に成長したという自負もある」
そうだろうと思う。木村を見ていればそう思う。
いろんなものが被さってはいても、芯の部分は、心優しく誠実な男だ。
それはご両親の教育の賜物だろう。
「だからこそ息子に見合った方と結婚して立派な家庭を築き、この銀行で将来を担える人間になってほしい。親バカかもしれませんが、私はそう願ってしまいますし、そうできるだけの男だと思っています」
「ええ……。そうですね」
私だって、そう何度も思って来た。
「息子は、ただの一行員という立場ではない。私の息子だという事実を背負っている。残念ながら、良くも悪くも、注目されてしまう。ただの29歳の行員じゃない。それはお分かりですね」
「はい」
一つ一つ丁寧に、木村の父親は言葉を発していく。
威圧的でもなく見下したものでもない。あくまで、自分の思いを述べる。そういうスタンスで。だからこそ、私の心に真っ直ぐに届くから、胸が痛い。