ニセモノの白い椿【完結】

「生田さんは離婚歴があるとお聞きしました。もし、陽太がただの一行員ならば、問題にはならない。でも、それがクローズアップされる立場にある。失礼を承知で申し上げます。銀行という組織は、まだまだ意識が古いところがある。陽太までもが、そういう人を選んだと見られてしまうんです」

思わず目を閉じる。
咄嗟に、耳を塞ぎたくなる自分を咎める。
全部分かっていることだし、事実だ。誰より自分で理解して来た。

「銀行員は信用が何より大事だと、あなたもお分かりですね?」

「はい」

知っている。これでも銀行という組織で働いて来た。

「そういう理屈とは別に、親としても納得できないところがありましてね。息子は初婚だ。大切に育てて来たからこそ、どうしてだ、という気持ちを拭えない。そんな気持ちであなたを迎えるのは、あなたにも失礼だ。結婚というのは人生がかかっています。一時の感情で決めていいものではない」

結婚は家族と家族の繋がりだ。
二人の感情だけで結びつけるものではないことくらい分かっている。

「おそらく、陽太は、今頭に血が上っている状態なのでしょう。親の言うことの聞く耳を持ちません。それで、不誠実なのを承知でこうしてあなたと直接お話をさせていただくことにしました」

木村の父親が私を真っ直ぐに見る。
その目は、私の人生を二倍は生きている人の、絶対に譲らないという意思の強さを湛えていた。

「本当なら親が勝手に踏み込む問題でないことは分かっています。でも、もうあまり時間もありません。先ほども申しましたように、銀行員は信用が第一だ。いつまでも独り身でいては仕事上も支障があります。この先、できるだけ真っ直ぐに階段を上って行ってもらいたい。ただ、息子には幸せな人生を歩んでもらいたい」

「分かります。お父様のお気持ちは、よく分かります」

親なら子の幸せを願うのが当たり前だ。

「ここからは、私の勝手なお願いです。どうか、陽太の未来を考慮していただけませんでしょうか。陽太のことを想ってくださるのなら、どうか賢明な判断をしていただきたい」

そう言うと、何を思ったのか、木村の父親が深く頭を下げて来た。

「やめてください。お願いですから、頭を上げてください!」

こんなことをされたら、私は――。

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