ニセモノの白い椿【完結】
「ありがたいことに、ぜひ陽太の元にと言ってくれているいい縁談もあります。社会的評価も地位も、陽太の将来にとって申し分のないお相手です。今は辛いかもしれません。でも、長い人生を見れば、あなたとのことは良い思い出の一つとなる。私もそうでした」
「陽太さんは――」
頭を下げ続ける木村の父親に、私は静かに口を開いた。
おそらく、もう何年も人に頭を下げるなんてことはしない立場にいる人だ。
それなのに、こんなどうってことない女にこんなにまでも頭を下げる。
それは、何より木村のことを考えているからだ。
親として、の先輩として人生の先輩として。
すべてを考えたうえでの、木村の父親の判断だ。
それが痛いほどに理解出来た。
今度は、心から納得できた。
「私に離婚歴があろうと人間的に欠陥があろうと、表面的なことで人を判断しない。そういう素晴らしい人だと思っています。それはきっと、ご両親から大切に育てられてきたから。だからこそ、真っ直ぐな人になったのだと思います」
ただ黙っているだけが私じゃない。
私にだって言いたいことがある。ちゃんと、それを伝えなければ。
そう思った。
「私も、そんな陽太さんには幸せな人生を歩んでほしいと思っています。それに、自分のことは自分が一番分かっています。私が、陽太さんに相応しい女ではないことは理解しています」
それでも、あの愛に包まれたいと思った。
私も、心から愛したいと思った。
だから、そうした。
「私は、陽太さんと結婚したいと思ったことはありません」
「それは……」
木村の父親が目を見開く。
「ただ、私は私なりに陽太さんと真正面から向き合ってきました。彼を想う気持ちに一点の曇りはありません。ですから――」
この日が来ることは、木村と向きあうことに決めた日から覚悟をしていた。
だからこそ、限られた時間、精一杯愛したいと思った。いつか来る終わりの日に後悔しないように。自分を守ったり誤魔化したりせずに、私全部で愛したんだと思いたかった。
だから、これだけは、絶対に譲れない。
「陽太さんとの関係を終わらせるのは、私の意思でさせてほしいんです。お父様に言われたからとか、そういう理由ではなくて。私と陽太さんと、二人で終わらせたい。それで、構いませんか?」
大好きだった。そして、木村も私を心から愛してくれた。
だから、木村と過ごした時間に後悔なんてない。