ニセモノの白い椿【完結】

「――ありがとうございます」

これまでの声とは全然違う、まさに頭取という立場ではなく親としての顔が全面に出たような深く染み入るような声だった。

「あなたの陽太に対する想いに、心から感謝します」

そう言って再び頭を下げた木村の父親に、今度は何のオーラも感じなかった。
本当に、ただの父親。それだけの存在としてここにいる。

「いえ。お父様に感謝されるようなことではありません。
私の方こそ、陽太さんには感謝しています。本当の幸せを教えてもらいました。彼に出会えてよかった」

木村の父親が私を見るから、だから、精一杯の笑顔を向けた。
それが私の意地なのかもしれない。

せめて知ってもらいたかった。私がどれだけ木村を想っているのか。
どれだけ伝わったかは分からないけど。

「――それでは、仕事がありますので失礼致します」

深く礼をして、部屋を出た。

扉が閉じる音がした途端、足元から崩れ落ちそうになった。
それだけ気が張り詰めていたのだ。一気にその緊張が緩んで、足に力が入らない。
壁に手を付いて、胸に手を当てた。まだバクバクと激しく動いている。

ちゃんと大人として、出来たかな――。

あまりに心臓が激しく動くから、その振動で涙まで出て来そうになる。

これから仕事だよって言うの。
今は仕事。

大丈夫。私は、大丈夫だ――。

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