ニセモノの白い椿【完結】
支店に戻る途中に、スマホを開く。
新しく追加された雪野さんのアドレスを表示した。
『お土産の話をしたら、雪野ちゃんも会いたいって。雪野ちゃんがアドレスを教えておいてほしいと言っていたから、二人で約束したら?』
そう言って木村から雪野さんのアドレスを教えてもらったのだ。
木村と話をしなければならない。
もうここまで来た以上、引き伸ばすのは余計に辛い。
だから、その前に雪野さんに会っておきたいと思った。
そのアドレス宛に、メールを打つ。
確実に残業のない水曜日に、雪野さんと待ち合わせた。
「ずっと、生田さんに会いたいと思っていたんです」
私を見つけた途端に、柔らかい笑顔を向けてくれる。
「こちらこそ、ごめんなさいね。出て来てもらって」
「いえ! 家、すぐそこですから」
嬉しそうにそう答えてくれた。
「本当に、すぐそこなのに。うちに来ていただいて構わなかったんですよ?」
「いえいえ」
万が一でも榊さんと出くわしたら、それは避けたかった。
だから雪野さんの申し出を断り、こうして以前連れて来てもらったカフェに二人で入る。
「これ、お土産です。あの時は本当に、雪野さんにはいろいろお世話になったから」
そうだ。私がニューヨークに出発する日に、雪野さんのおかげで私は木村の本当の気持ちを知れたんだ。それなのに、こうして雪野さんに会うのに哀しい報告をしなければならないのがいたたまれない。
「ありがとうござます」
そう言って紙袋を受け取ると、その袋を開き「凄くいい香り!」と嬉しそうな声を上げた。
何にしようかと悩んで、コーヒーにしたのだ。
お宅に行った時に、いくつかコーヒー豆を並べていたのをキッチンで見かけて。
二人はコーヒーをよく飲むのだろうと思った。
「主人も私も、コーヒー好きなんです」
その言葉に安堵する。
雪野さんがもう一度「ありがとうございます」と頭を下げて、改まるように口を開いた。
「――あの日は、私、勝手なことをしてしまったかなと後から少し不安になったんですけど。木村さんがあまりに頑なだから、だんだん腹が立って来て。自分の本当の思いとちゃんと向き合ってほしかった」
「雪野さんでも腹が立ったりするんですか?」
雪野さんらしからぬ発言に少し驚く。
「え? それくらいありますよ! 腹が立って怒ったり。結構頑固だったりね」
「見えないです。全然」
雪野さんがふふっと笑う。
「――でも。良かったです。お二人が同じ気持ちで、想いが通じ合って。嬉しいです」
そんな風に優しく微笑む雪野さんに、私は目を伏せた。
雪野さんにはちゃんと言っておきたいと思った。
そして、きっと、雪野さんなら一番私を理解してくれると、そう思った。