ニセモノの白い椿【完結】
「木村さんのことなんだけれど」
「はい?」
コーヒーカップを手にした雪野さんが私に笑いかける。
その笑みが、胸に痛い。それでも、心を決めて口を開く。
「私、木村さんとはお別れしようと思ってます」
「……え?」
その笑顔の抜けきらない雪野さんの表情が、より私を苦しくさせる。
「最初から、いつかは終わらないといけない関係だと思っていました。どう考えても私と木村さんとでは不釣合いでしょう? なんてったって、バツイチっていうのが一番のネックで。でも、それは自分のしてきたこと。それなのに、その重荷を木村さんにまで背負わせるのは、私が嫌だから」
「でもっ! 木村さんは、そんなこと何も気にしていないですよ。生田さんのことが好きなんです。すべてひっくるめてあなたが好きなんだから。木村さんはそういう人です!」
「分かってます。よく分かってる」
声を荒げた雪野さんを制する。
「若い子じゃない。大人だからこそ、感情で突っ走ってはいけないと思います。ご両親に大反対されてまでしなくちゃいけない結婚なんてない。一度経験しているから分かるんです。結婚は、二人だけのものではない。自動的に家族をも巻き込みます。皆の感情を無視してしていいわけがない」
「じゃあ、木村さんの気持ちはどうなりますか? 生田さんの気持ちは?」
雪野さんが泣きそうになりながら訴えて来る。
「木村さんのためになるなら、私はなんだってできる。自分の中で納得できたんです。別れることが木村さんにとっていいことだと」
「でも――っ」
「――この気持ち、雪野さんなら分かってくれると思う。だから、それ以上何も言わないで」
真っ直ぐに雪野さんを見つめた。
雪野さんに対して酷なことを言っているかもしれない。でも、雪野さんには分かってほしかった。
「雪野さんも、いろんな思いをしたんじゃないですか? だから、分かってください」
雪野さんの目が揺れる。
雪野さんだって、榊さんを想って身を引こうとしたことがあるんじゃないか。
そんな気がする。
「そんなこと言わないでください。そんなこと言われたら、私は、あの時木村さんの背中を押したことを後悔しなくちゃいけなくなる」
雪野さんがその目から涙を一筋零した。