ニセモノの白い椿【完結】

「そんな必要ない。後悔なんてしないでください。私は、木村さんの恋人になれたこと、少しも後悔していないんだから。だって、二人で過ごした時間は私の宝物だもの」

そう言うと、彼女がさらに目に涙を膨れ上がらせた。

「生田さんは大人過ぎます。恋は一人で出来るかもしれない。でも、恋愛は一人でしているものじゃない。木村さんはそんな生田さんの決断を受け入れるかどうか分かりませんよ? ううん。絶対受け入れない」

もう涙が流れるのにも構わずに、彼女が私に言葉を繋ぐ。

「それを説得するのが、私の腕の見せ所かな。私、これでも木村さんより年上ですからね」

木村を心から愛している。
その一方で、姉のような気持ちになる部分もある。

実際の私は、全然いい姉なんかじゃないくせに。

それでも、木村にはやっぱり幸せになってほしいと思う。私をどん底から救ってくれた人だ。
これから先の人生、堂々と歩ける、誰から咎められることもない明るい道を歩いてもらいたいと思う。

「私は、何もできないの……?」

雪野さんが涙を拭う。

「こうして私の話を聞いてくれました。木村さんと付き合っていること、雪野さんご夫婦以外誰も知らないから、すごくありがたい」

この恋は、誰にも胸のうちをあかせなかった。
だから、雪野さんの存在に救われている。

「これだけは言わせてください」

意思のこもった強い眼差しときっぱりとした声が私に向けられた。

「確かに、違い過ぎる立場の人間同士の結婚は苦しいことが多い。普通の結婚をしていれば味あわなくてもいい苦労があります。
どうして私のことなんか選んだのかと、そんな恨み言まで言いそうになったこともありました。
でもね、相手を好きだと思う気持ちは、凄くシンプルで純粋な気持ちなんだと思うんです。
思う気持ちが大きいほど純度が高い、純度が高いから壊れない。何があっても、どれだけ足掻いても、壊れてくれないんですよ。だから、苦しくても一緒にいるんです。一緒にいてしまうんだと思うんです」

控えめで物静かな雪野さんが、必死に言葉を紡ぐ。

「木村さんにとって生田さんは、そういう人。木村さんの覚悟は決まっていると思います」

きっと――。雪野さんは、ただ優しいだけでも物静かで控えめなだけでもない。
すべてのものをありのまま受け入れる、そういう強さを持っている。だから、榊さんは雪野さんを心から愛しているんだろう。何があっても離れられなかった。


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