ニセモノの白い椿【完結】
「今度、お昼行こうよ。シフト、教えて?」
「では、また近いうちに――」
笑顔で適当にかわそうとしたら、それを読まれたのか、先手を打たれた。
「生田さんが一緒に働いている、白石さんも誘ったんだ。いいよね?」
一対一でないなら、断るのも不自然で。
私は、しかめてしまいそうな表情をなんとか抑える。
仕方なく「よろしく、お願いします」と作り笑顔で答えた。
「それでさ、その後の連絡に必要になるかもしれないから、携帯の番号教えて――」
「あっ、すみません。この後用事があって。遅刻しちゃいそうなので、失礼します。お疲れ様でした」
さらに面倒なことを言い出した立科さんを振り切り、支店の外に出た。
本当に、面倒。
駆けだした足を止め、膝に手をつく。そして、雑踏にまみれて大きく溜息を吐いた。
仕事だけを淡々としていたい。ただそれだけが私の今の願いなのに。
そう考えると、立科と言い、木村と言い……。
勤務開始早々、面倒なことばかりだ。
「――生田椿さん」
そう思って溜息を吐くと、どこからともなく私を呼ぶ声が聞こえた。
今度は、誰――!
思わず頭を振り周囲を見渡す。
支店の裏口の通りにあるガードレールにもたれて立つ木村が視界に入った。
何かを考える前に、思わず逃げ出しそうになる。
そんな私を引き止めるように、さらに言葉を続けて来た。
「これから帰り?」
「そうですけど、そういう木村さんは……」
ポケットに手を入れて立ち上がると、私の方へと歩いて来た。
そんな木村に、身構える。
「俺も、今帰り」
「そ、そうですか。では、失礼します――」
白石さんの前では敬語を使っていたくせに、何故かくだけた言葉で話しかけて来る。
木村に対しては、どう対処すべきか、本当ならいろいろと考えなくてはならないことがある。
でも、ここはとりあえず立ち去りたい。
先送りとも言えるその考えに従ってしまいたかった。