ニセモノの白い椿【完結】
「生田さんさ、本当は俺に何かお願いしたいことがあるんじゃないの?」
「は……?」
そそくさと逃げようとした私に、意味ありげな言葉が投げかけられる。
「それは、どういう意味で――」
「だって、俺だけが知っているわけでしょう? ”美人で感じのいい生田さん”の裏の顔。ずっと不安だったんじゃない? 俺が余計なこと言わないかって」
左手に鞄を持ち、右手をポケットに入れ、余裕の笑みを浮かべて。
この状況は、完全に相手が優位にいる。
「何が言いたいんですか」
「これから、ご飯、付き合ってよ。そこで、ゆっくり話そうか」
「それって、脅しですか……?」
立科以上にタチが悪い。
目の前にいる木村を睨みつけていた。
「どうしてそうなるの。あなたの不安を取り除いてあげたいって思っているだけだよ。どうせ、生田さんだって一人寂しく夕飯食べるんでしょう? ちょうどいいじゃない」
「ちょうどよくなんか――」
確かに、殺風景なアパートで一人コンビニ弁当の予定だけどーー。
「行くよ」
私の答えなんて聞くまでもなく、木村は勝手に歩き出した。
「ちょっと、待って」
その背中は止まりもせず、ずんずんと進んで行ってしまう。
別に、この男の言うことを聞く義務はない。
でも――。
”あなたの不安を取り除いてあげたいって思っているだけだよ”
その言葉が妙に胸に残って。
確かに、この男が何を知っているのか、知っておきたいと思っていた。そして、出来ることならその胸に留めておいてもらいたいと思っていた。
これは、いい機会かもしれない――。
言いなりになることに悔しさも感じるけれど、木村の言うことを無下にするのも惜しい。
仕方なく、その背中の後を追った。