ニセモノの白い椿【完結】
「で、あの日のことなんですけど――」
意を決して本題に入ろうとしたところで、いつの間にかジャケットを脱いでいた木村が私に問い掛けて来た。
「パスタ嫌い?」
「嫌い、じゃないです」
「良かった。飲み物は、とりあえず生でいよね?」
「ああ、はい――って、今日はお酒は飲みません!」
「なんで。バーに入って酒飲まないの?」
お酒で失敗した私が、それも、この男の前で酒など飲むはずもない。
「勝手にバーに連れて来たのはあなたでしょう。もう、一人でお酒は飲まないって決めたんです」
「確かに、生田さんは一人で飲まない方がいいよ。あれは危険だ。でも、今日は一人じゃないから大丈夫でしょ?」
いやいや、まったく大丈夫じゃない。
「あなたは、ただの顔見知りってだけで家族でもなければ友人でもない。そんな人の前で迂闊に飲めないです」
「じゃあ、今日から友達になればいいんじゃない?」
「……はぁ?」
この人、何を言ってるのか。
「とりあえず、何か腹に入れようよ。俺、腹減ったんだけど。マスター、いつものパスタ二人前と、生二つよろしく」
ちょっと――と声を発する前に、目の前の男はカウンターの向こうにいるマスターさんに向かって叫んでいた。