ニセモノの白い椿【完結】
「あ、そうそう。『頼まれたから結婚してやっただけで、好きだったわけじゃない。調子に乗るな、バカヤローのくそったれ』とも言っていたかな。それから――」
「もういい! もう、分かった。もう、結構です」
聞いていられなくなって、木村を制止した。
「要するに、私が離婚歴があることも、夫の方から切り出された離婚だったことも、ご存知ということね」
額に手のひらを当てる。本当に頭が痛くなりそう。
「はい。存じ上げております」
木村は、私とは正反対の満面の笑みだ。
「――綺麗なだけで中身が最低。そのうえ三十路のバツイチ。そんな女だとバレているのだから、木村さんも絶対に私に惚れることはないね。私も、男に言い寄られても困るだけだから、好都合だわ」
他人に見せてしまった醜態の詳細を知り、あまりの恥ずかしさに消えたくなる。
そのいたたまれなさを吹っ切るために、差し出されたグラスを一息で飲み干した。
でも一方で、この男の前ではもう何も取り繕いようがないわけだ。
最低最悪の、そして、本当の私の姿を知られたわけだから。
「『綺麗なだけ』って、自分で言っちゃったよ。例え思っていても、女性でそんなこと口にする人、普通いない」
本当の私は、控えめでも落ち着いた大人の女でもない。裏表のある極悪人だ。
「もうお分りだと思うけど、私、かなり性格悪いので」
もう、開き直ってやる。
「そんなこと、きっぱり宣言する奴もいない!」
木村が声を上げて笑うから、私も一緒になって笑ってやった。
それからさらに二杯ほど飲みほろ酔い気分になったところで、バーを出た。
通りに出ると、春の夜風が気持ち良かった。
「今日は、ごちそうさまでした」
「いえいえ。俺が無理やり誘ったし。それに、俺、”セレブ”だから、金あるし?」
木村が鞄を後ろ手に持ちながら、嫌味な笑みを浮かべている。
「ほんっと、一言多い人だね。でも――」
心地良さだけを与えてくれるこの日のアルコールが、少しだけ私を素直にさせた。
「こんな風に何も考えずに笑えたの、久しぶり」
「それなら――」
優しい夜風に身を任せていると、私を真っ直ぐに見ている視線に気づく。