ニセモノの白い椿【完結】
「俺たち、友達になろうか」
「友達?」
そう言えば、さっきもそんなことを言っていたっけ。
「そんな風に鉄壁に自分を隠して生きて来たんなら、男友達なんていたことないだろ」
「それは……」
その通り。
男の子と話す時はいつも、”素敵な椿さん”だ。
私に声を掛けて来る男の子たちも皆、私と友情を育むためじゃない。
その目はいつも、”美しい”私を見ていた。
「男友達って、いいもんだと思うよ? どう見られるかなんて気にしなくていい。駆け引きもいらない。ただひたすらに、本当の自分の姿で向き合える」
「何よ、それ」
私はこれまで、女の子の友人ですらそんな関係を築いたことはない。
”どう振舞うべきか”と、言葉を発するたびに行動するたびに、考え続けて来た。
「生田さんにとって最低最悪な日に出会ったのも、何かの縁だ。こうなったら、俺が友人として、破れかぶれのあなたが幸せになる日まで見届けてあげるよ」
それは友人というより、もはや親の仕事だ――!
「見届けなくていいから。そんなの見届けようと思ったら、寿命が何年あっても足りないよ」
私がそう答えても、それ以上は木村は何も言わず、ただ笑っていた。
「まあ、いいや。私は駅こっちだから。じゃあね!」
そんな木村に声を張り上げて、そして背を向けた。
人で溢れた歩道の流れに自分の身を溶け込ませる。
「――家賃払うのキツくなったら、いつでも部屋貸すよ!」
背後から聞こえたとんちんかんな言葉に、勢いよく振り向く。
人並みに紛れ込んではいたけれど、確かにそこに木村がいて、私を見ていた。
「バカなこと言ってんじゃないよ!」
表参道なんていう洒落た街にそぐわない台詞を吐いたから、行き交う人たちが声の主である私に訝しげな視線を向けて来た。
「水曜!」
今度は、何だ。
また、何の脈絡もない言葉を木村が発する。
「え? 水曜が何?」
「水曜の夜はたいていあのバーにいるから。一人でいたくない辛い夜は、いつでもどうぞ!」
水曜って――今日か。
「辛い夜は、一人で飲みます!」
「強がるな、友よ。じゃあね、友よ!」
完全にほろ酔い状態だと思われる木村が、最後にそう大きな声をあげると私に背を向けた。
まったく、何が友だ――。
私は、友達になると了承した覚えはない。
私に背を向けたまま、その腕だけが振られている。
人並みに消えていく木村の背中を見送り、ふっと息を吐いた。
呆れたつもりだったけれど、自然と零れたのは笑みだったかもしれない。