ニセモノの白い椿【完結】
それからも、職場での私たちは何も変わらなかった。
部署も違えば、仕事内容もまるで違う。私は一派遣社員、そんなに顔を合わす場もない。
そして、お互い、ここでは別人格の人間だ。
木村は、相も変わらず真面目を装って、決して気安く声を掛けて来たりはして来なかった。
私の方も、木村と二人で飲んだりしたことを職場の人間に知られたくはない。
特に、彼女には――。
「立科さんから聞いてますよ! 生田さんとお食事できるの楽しみにしてます」
勤務後に、更衣室で白石さんに意味ありげな笑みを向けられた。
「お食事、ですか?」
「ご飯、一緒に行こうっていう話です」
ああ……。
そんなようなことを立科さんが言っていたのを思い出す。
「それにしても、早速、立科さんから誘われるなんて。さすが生田さん!」
また、”さすが”か――。
別に何もどこも、嬉しくない。
「立科さんって、行動力あるしなかなかのイケメンだし。素敵だって思っている子も結構いるんですよ?」
制服から私服へと着替え終わり、最後にトレンチコートを着た。あとはバッグを持って帰るだけだ。でも、隣で着替えている白石さんの口が止まる気配はない。
「生田さん、すっごく綺麗ですもんね。女の私から見ても、本当に見惚れちゃう。だから、立科さんもすぐに行動に出ているんでしょうね。完全にロックオンされてますよ!」
結構です。狙われたくないです。
今すぐ、ロックオンを解除してください。
そんな私の心とは反対に、白石さんの不自然なまでの笑顔は、何故かとても楽しそうだ。
立科さん、本当に白石さんまで巻き込んで、食事に行くつもりなのか――。
そう思うとげんなりする。面倒だ。ただただ、面倒でしかない。